《本記事のポイント》

  • ずさんな工事と堤防の"歪み"
  • 決壊したら「上海が海に変わる」
  • 三峡ダムは台湾有事の反撃地点に!?

中国各地を豪雨・洪水が襲っている。日本の国土交通省に相当する中国の水利部は、広西、広東、江西、浙江、湖南等に災害対策チームを派遣した。

そんな中、懸念されているのが、湖北省宜昌市の三峡ダムの決壊である。これは北京政府が威信をかけて造設した世界最大級のダムだが、建設当初から問題を抱えていた。

ずさんな工事と堤防の"歪み"

6月20日付『大紀元』の「王維洛独占インタビュー:三峡ダムプロジェクトでは洪水を防げない。脱出用バッグを用意しよう」という記事が興味深い。王維洛はドイツ在住の水利専門家で、『三峡工程三十六計』の筆者である。

インタビューの中で、王はダムの問題点について次のように語っている。

  • 第1に、ダム建設の際、コンクリート注入工事が拙速だった。

  • 第2に、中国共産党は、ダムを模範的創造物としようと考えた。そこで、オーストリアのダム建設監督会社を招いた。建設のプロセスで同会社は、中国人労働者による鉄筋コンクリート鉄筋溶接をすべて不合格とした。だが同党は、外国人による中国人蔑視だとして、建設監督会社の評価を無視した。

  • 第3に、ダム工程の設計等は、すべて1組の人間(銭正英と張光斗)に任されていた。そのため、チェック機能がほとんど働いていない。

三峡ダムは1993年に着工され、2009年に完成した。しかし完成当初から、ダムには多くの亀裂が入り、問題視されていたのである。

そして2019年夏、Google Earthに表示される三峡ダムの堤防が湾曲していることが話題を呼んだ。それに対して中国当局は、「ダムは湾曲するよう設計されている」という奇妙な言い訳をした。それが、「近い将来、ダムが決壊するのではないか」という疑念を深めた。

最終的に当局は、「グーグルアースの画像がおかしく、実際の堤防は歪んでいない」と噂を否定したが、説明が二転三転しているのがますます怪しい。

決壊したら「上海が海に変わる」

そして今年6月に入り、三峡ダムが危険な状態にあると、再びささやかれ始めた。豪雨で上流の四川省や重慶市で洪水が起き、三峡ダムの水位が急上昇したからである。

6月17日、四川省カンゼ・チベット族自治州丹巴県の発電所が流され、土石流が発生した。また同22日、重慶市江津区●(基の「土」が「糸」)江五岔では、最高水位が205.56メートルにも達した。これは洪水防止のための制御水位200.51メートルよりも5.05メートルも高い。そのため、重慶市は大洪水に見舞われている。同日、四川省アバ・チベット族チャン族自治州でも洪水が起きた。

四川省と重慶市からあふれ出した水が、下流の三峡ダムへ一挙に流れ込んだと仮定しよう。そしてダムが決壊したら、巨大な津波が長江流域の大都市、武漢・南京・上海等を襲う。たちまち数億人が被災するだろう。目下、中国では「上海将変海上(上海が海に変わる)」という言葉が流行っているという。

同時に、ダムの堆砂が長江一帯に流れ出し、工場地帯や穀倉地帯に多大な被害を与えるだろう。3.5億の人口を抱える長江流域は、全国耕地の25%、同食糧生産の40%、同棉花生産の33%、同淡水魚生産の66%を占めると言われる。

周知の如く、新型コロナウィルスで武漢市等にある日系企業は、サプライ・チェーンがストップし、大きなダメージを受けた。多くの日系企業は「チャイナリスク」に気付いたはずだが、未だ中国に固執する企業もあると聞く。こうした企業は、大きな痛手を負うだろう。

三峡ダムは台湾有事の反撃地点に!?

三峡ダムは、中国の軍事的弱点でもある。

前述の「王維洛独占インタビュー」の中で、中国軍事に詳しい楊浪が次のように述べたと記されている。

長江の流域経済は、中国全体の40%を占める。もし三峡ダムが決壊したら、その下流の4億人が影響を受ける。仮に、中国軍が台湾を攻撃し、台湾軍が反撃として三峡ダムを崩壊させた場合、中国軍落下傘部隊の90%が多大な打撃を受ける。解放軍予備軍も壊滅するだろう──。

確かに、台湾本島から三峡ダムまで、せいぜい1100キロ~1200キロ程度である。中国軍が台湾攻撃を開始したら、台湾側は射程1500キロメートルの中距離ミサイルで三峡ダムを攻撃するに違いない。実際、台湾は近年、射程が中距離ミサイルの開発・配備に力を入れている。

いったんダムが決壊したら、北京政府には為す術があるまい。中国共産党の運命そのものも左右しかねない。

アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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