《本記事のポイント》

  • 新型コロナショックで、主要経済統計は軒並み二桁減
  • 「消費は激減」「投資・輸出は増」という不思議なGDP統計
  • コロナ・貿易戦争以前に、習政権の"経済音痴"が災いしていた

中国国家統計局がこのほど発表した、1-2月の主要経済統計が痛々しい。

第1に、小売業の売上高が前年同期比で、20.5%減少した。「新型コロナウィルス」(いわゆる「武漢肺炎」。以下、「新型コロナ」)の感染が拡大したので、ヒト・モノの移動が厳しく制限され、全国の工場や小売店・飲食店が休業を余儀なくされている。

第2に、工業生産は、前年同期比で13.5%の減少となった。市場予想は3%前後の減少であったこともあり、衝撃的な数字だ。

第3に、固定資産投資は、前年同期比で24.5%減少した。市場では、2%減が見込まれていたが、この落ち込み様は予想できなかっただろう。

怪しい統計と、背景にちらつく経済危機

これらの景気悪化は直接的には「新型コロナ」に起因することは間違いない。だが、それ以前からすでに、中国経済は危機に立っていた。

中国国家統計局が今年2月28日、2019年の国民経済の主要統計を発表している。この数字が、すでにいろいろな意味で"痛々しい"。

どういうことか。国内総生産(GDP)を見ると、19年は名目99兆865億元(約1510.1兆円)で、前年比6.1%成長だった。当局としては、「6%成長」を死守した形だ。しかし、GDPの内訳である「消費」「投資」「純輸出(輸出―輸入)」の伸び方を見ると、無理やりな数字を出している印象は否めないのだ。

具体的に見てみよう。まず「消費」は、インフレなどの影響を考慮しない名目値で見ても、マイナス16.5ポイント下落している(19年が57.272兆元、18年が68.604兆元)。米中貿易戦争や「アフリカ豚コレラ」(ASF)などにより、それなりのダメージがあっただろう。

しかし「投資」の項目を見て、驚く。なんと6.0ポイントのプラスなのである(19年が30.915兆元、18年が29.170兆元)。近年、投資はずっと右肩下がりであった。そこに追い打ちをかけるように消費が激減し、人々が買い物をしなくなったにもかかわらず、なぜ投資が"復活する"のだろうか。

数字をいじっているか、あるいは数字達成のため、誰も使わないインフラやマンションを急ピッチで開発しているのだろうか。

さらに注目したいのは「輸出」である。18年は輸出と輸入の差し引き額が-7.743兆元だったが、19年は10.900兆元とプラスに転じた。18.643兆元も増加している。貿易戦争が激化している中で、純輸出が"劇的な復活"を遂げるようなことが、本当にあり得るのだろうか。

実際は、消費が16.5ポイントも減っているのであれば、投資需要もそれ相応に減るはずだ。また、消費の源泉になっている輸出での儲けも、かなり減っているはずだ。6%成長などというのは本来、「夢のまた夢」というのが、実情ではないだろうか。

いずれにせよコロナ騒動がある前から、中国は目を覆うばかりの経済停滞に入っている可能性が高い。

"経済音痴"のツケ

こうした中国経済の苦境は、「米中貿易戦争」や「疫病」など、外部要因だけによるものとはいえない。習近平政権の経済・金融政策にこそ問題の本質が潜んでいるのはないか。

習近平・国家主席は2012年11月、総書記に就任以来、これまでの「改革・開放」のトウ小平路線を完全に捨て、「第2の文化大革命」を始めた。経済的な自由よりも政治統制を優先したので、経済成長が難しくなったと考えられる。

また、国家主席は慣例では、経済は首相に任せていた(江沢民─朱鎔基体制、胡錦濤─温家宝体制)。現政権であれば、李克強に任せるはずであった。ところが、習主席が李首相の権限を奪い、権力を集中させた。そのため、経済に明るくない習主席の意向で経済・金融政策が行われている。

とりわけ、2015年に習近平政権が導入した「混合所有制」では、活気のある民間企業とゾンビ、あるいはゾンビまがいの国有企業を合併させた。当然、民間企業のトップは利益を最大限にする努力をやめている。どのみち、大半の利潤を共産党に吸い上げられてしまうからである。

同時に、習近平一極集中体制を作るため、「反腐敗運動」という名の下、優秀な人材を何十万、何百万も政治的に葬った。そのため、多くの官僚達がヤル気を喪失し、活躍する場を失っている。彼らは嵐が過ぎ去るのをじっと待っている観がある。

更には、習近平政権下、政治がむやみに経済に介入するので、金融市場・株式市場・不動産市場が歪み、いわゆる「神の見えざる手」がほとんど作動しなくなった。中国共産党は自らを"神"だと自認しているから、マーケットに任せることができないのである。そのため、かつての社会主義国同様、需要と供給のバランスが崩れ、資源が適正に配分されていないのではないか。

もちろん、必ずしも資本主義が素晴らしいというわけではない。しかしすでに、社会主義国が上手く行かないのは、歴史的にほぼ証明されている。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

【関連書籍】

『中国発・新型コロナウィルス感染 霊査』

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大川隆法著 幸福の科学出版

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