《本記事のポイント》

  • 米シンクタンク識者が、貿易交渉の焦点は中国に「法の遵守」をさせることだと指摘
  • 補助金についての情報開示と、知財窃盗をする企業への制裁強化が不可欠
  • 不正にアメリカ市場で資金調達する、中国企業の財務情報の開示を急げ

貿易戦争の収束を目指す「第一段階」の部分合意に向けて、米中貿易交渉が大詰めを迎えている。

アメリカは中国に農産物の購入拡大を求める一方、中国は追加関税の全廃を求めており、双方の条件がかみ合わない可能性が出てきた。

第一段階の合意に至らなかった場合、トランプ政権は、12月15日にパソコンやスマートフォンなど1600億ドル(17兆円)分の中国製品に15%の追加関税をかける構えだ。

農産物等の輸入を増やしても成果ではない

だが、中国が大豆などの農産物や液化天然ガス(LNG)などの大幅な輸入をしたからといって、アメリカが貿易交渉で成功したと見るべきではない、という声も根強い。

その一人が、米シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ・インスティトゥート(AEI)のデレック・シザーズ氏だ。

シザーズ氏は10月末に政治専門紙「ザ・ヒル」に寄稿。知的財産の保護、輸出規制の問題など、法の遵守の問題が未解決であれば、アメリカは貿易交渉で勝利したとは言えないとして、以下のように主張する。

(1)補助金問題は未解決

  • どれだけの中国企業が中国政府から補助金を得ているのかを開示しなければ、自由な競争条件が整ったとは言えない。

(2)知財窃盗へのよりよい対処の方法

  • 知財窃盗を罰するために、アメリカは関税をかけてきたが、貿易関税という手段は、窃盗をしていない企業も同時に罰するため有効な手段ではない。よりよい手段は、知財を盗むことで利益を得ている中国企業を罰することである。

  • ファーウェイや監視カメラを製造する中国企業は、安全保障上、懸念のある外国企業のリストである「エンティティ・リスト(EL)」に入れられ、アメリカ企業は直接的には部品・技術の供与ができなくなったものの、第三国を経由すれば輸出できるため、制裁の抜け道がある。

  • したがって、知財窃盗の疑いのあるすべての企業をブロックし、金融制裁を科さなければ意味がない。だがトランプ政権は、中国に対して知的財産法の整備を求めている。これは、知的財産の保護を中国共産党に委託するのと同じで、中国共産党がそれを守る保証はどこにもない。

(3)実効性のない輸出規制

  • 昨年、議会は圧倒的多数で輸出規制の強化を可決した。だが商務省内に人員が充てられていない。また企業のロビー活動も手伝って、今後も安全保障より私企業の利益が優先され、先端技術の移転が行われる可能性が高い。

(4)中国企業の財務情報を開示させよ

  • 最後に、アメリカ市場に上場する中国企業の財務情報の開示の問題で、我々の法が破壊されている。上場する中国企業が、上場の条件を満たすための情報開示を行っていないからだ。アメリカの金融業界は、監査を強く求めれば高くつくと考えているが、これはアメリカの根本的な弱さを示している。アメリカは長年、中国共産党が秘匿したいと考えているこの問題に対処しなければならない。

トランプ政権は貿易交渉で、知財の保護などを議題にせよ

今回の貿易交渉では、知的財産権の保護などの議題は棚上げされている。また輸出規制も実効性のないものになっている。さらには根深いのは、アメリカ市場に上場する180社ほどの中国企業が財務情報を開示せず、不当に利益を上げている問題だ。

中国企業は、米株式市場で、時価総額約1兆ドル(108兆円)を資金調達しているが、騙された投資家の数は多く、社会問題化している。このため米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は14日に公表した年次報告書で、この問題について触れ、ルールに従わない中国企業の排除を議会に促した。

貿易交渉で、目先の米農産品などの対中輸出を増やすことができれば、トランプ政権としては有権者に分かりやすい「成果」には違いない。

だがそれはあくまでも成果の一つに過ぎない。法を遵守することは、近代国家の条件だ。トランプ政権は本質的な論点から目をそらさずに対中貿易交渉に臨んでほしい。

(長華子)

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