呉善花

プロフィール

(オ・ソンファ)1956年、韓国・済州島生まれ。評論家、拓殖大学国際学部教授。 90年『スカートの風』(三公社)がベストセラーとなる。98年に日本に帰化。『攘夷の韓国・開国の日本』(文春文庫、第五回山本七平賞受賞)、『なぜ「反日韓国に未来はない」のか』(小学館新書)、『韓国を蝕む儒教の怨念』(小学館新書)など、著書多数。

混乱の続く韓国――。

日韓関係に加えて、米韓関係まで軋みはじめている。

さらに国内では、大統領の側近のスキャンダルにも揺れている。

文在寅大統領の韓国に未来はあるのだろうか。

日韓関係のスペシャリストである呉善花氏に、現在の韓国情勢をいかに読み解くべきか、話を聞いた。(聞き手:国際政治局 吉井利光)

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大変な韓国の今

――これから、文在寅政権はどうなっていくのでしょうか?

呉善花氏(以下、呉): もしかすると任期の満了も厳しいかもしれません。一つは経済問題です。以前から指摘されていましたが、今は本当に厳しいです。ウォンも下落し、株価も下落しています。韓国の富裕層は海外に逃げて、韓国の若者たちは「就職移民」かのように、日本での就職を目指しています。

――効果的な打開策はあるのでしょうか。

呉: 文在寅政権がしていることは、一言で表現すると、問題の責任転嫁です。「積弊清算」と称して朴槿恵前政権をはじめとする歴代政権の経済政策を批判しています。

資本主義の副作用を是正するためと称して、法人税を上げました。ごく一部の資本家が、他の人を搾取しているとして、経済人は悪人のように扱っています。また、庶民の暮らしを良くするためと称して最低賃金を上げました。しかし、企業は疲弊しており失業率は増えています。

さらに日本にも責任をなすりつけるために、相変わらずの「ホワイト国除外」への批判です。根本的な問題解決の手は打たれておらず、韓国経済は深刻な状況です。

曹国(チョ・グク)法務長官の就任にこだわる理由

――文在寅大統領は、不正疑惑による反対を強引に押し切って、側近である曹国(チョ・グク)氏を、法務長官(法相)に任命しました。

呉: このところ、チョ氏の不正疑惑問題で韓国は大揺れでした。それでも文大統領は、チョ氏を強引に法相に任命すべき「事情」があります。チョ氏は文政権の屋台骨であり、彼なしでは文政権の運営は立ち行かなくなってしまうのです。

これからは、権力を振りかざして独裁的な行動をとるでしょう。チョ氏は9月9日に法相に任命されるや否や、公約である検察改革に向けて動き出しており、検察総長と全面対決の様相を呈しています。政権の支持率が下がったとしても、「勝てば官軍」なのです。

――大統領の任期後も見据えているのでしょうか。

呉: 憲法改正をして、現行の大統領「五年任期・再選禁止」を「四年任期・再選可能」とする文大統領の取り組みは頓挫しました。そこで、今は後継者に育てたいのです。そうしないと、大統領任期後の「命」が危ないのです。

後継者と目されるチョ氏は社会主義者です。ある会合では「社会主義の理念を、韓国の憲法に組み込むべき」と主張したという話もあります。

彼は「改革」や「革命」というキーワードを積極的に使って、朝鮮の伝統である「改革」の旗手であることをアピールしています。そして、志が高いからこそ厳しい疑惑の追及を受けているのだと開き直っています。

――チョ氏は"たまねぎ男"とも揶揄されてスキャンダルが次々と出てきていますが、疑惑は晴れるのでしょうか?

呉: 次の疑惑で大きなものは、親族が保有するファンド問題です。チョ氏の親族が保有するファンドは、公共事業である街灯事業や、国策として推進するスマートシティ事業に関連するメーカーに投資をして、この数年で大きく資産を増やしました。

ファンドが投資する会社が、仕事を受注できるようにチョ氏が便宜を図ったのではないかと疑惑を持たれています。検察側は徹底的に調査する構えで、疑惑の追及はこれからも続くでしょう。

文大統領が描く、今後の韓国の青写真

――文政権の掲げる南北の統一は、具体的に進んでいるのでしょうか。

呉: 文大統領は、当面は「南北の連合国家」を目指しています。第一歩が、韓国と北朝鮮の間を鉄道で結ぶことでした。国連安保理・アメリカの北朝鮮の制裁に抵触するため、着工はしていません。しかし、2018年12月に制裁の対象とならない「調査」を名目として、盛大な除幕式までして、水面下でプロジェクトをスタートさせています。

鉄道構想は、韓国と北朝鮮にとどまらず、中国を経て中央アジアからヨーロッパにまで伸ばす計画もあります。そうすると中国の「一帯一路」にも合流できます。国際競争力が低下し、苦境にある韓国の経済人は、北朝鮮をはじめとするフロンティアに進出できる可能性に希望を感じてしまうのです。

次に開城(ケソン)工業団地の再開です。経済協力と文化交流をして、北朝鮮を発展させようとしています。文大統領としてみれば、チョ氏を後継者として、南北統一路線を続けていけば、憲法改正をして再び大統領になる機会を狙うこともできるわけです。

――北朝鮮への憧れは、どこから来るのでしょうか。

呉: 文政権のメンバーの多くは、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領時代に反政府運動をしていました。そのころ、猛烈に勉強した北朝鮮の主体思想(チュチェ思想)にルーツがあるのでしょう。彼らは、歴代政権の失敗で、韓国は儒教思想をはじめ先祖代々の民族的伝統を失ったと考えています。その一方で、北朝鮮には正当な伝統があるという憧れがあるのです。

「我々の正当な伝統が残る北朝鮮に、韓国の経済力が組み合わされば、面白い国づくりが出来る」、こう考えているのです。

「ホワイト国除外」で「反日」を自制する意見が出てきている

――日本では、輸出手続きでの優遇措置を取る「ホワイト国(優遇対象国)」から韓国を除外する政令が施行されました。

呉: サムスンの半導体は世界一だと多くの韓国人は誇りに思っていたのです。しかし、フッ化水素などの3品目が輸出管理されることになり、日本の材料なしでは何も製造できないという事実を突きつけられました。日本から見れば大袈裟だと思うかもしれませんが、「ホワイト国除外」は韓国人にとっては大きなショックだったのです。

これまで、韓国国内で日本を評価する声はほとんどありませんでした。災害時の日本人の規律の正しさを評価することはありました。しかし、歴史問題をはじめ、その他のことで日本を評価することは絶対ありません。公の場での「親日」発言は長年のタブーでした。

ところが、「ホワイト国除外」をきっかけに潮目が変わりました。この点は興味深いです。半導体のみならず、自動車部品の多くも日本から輸入しています。日本に大きく依存する自国の実態を多くの韓国人は認識しました。

そして、「日本なしでは、韓国の経済は成り立たない」、「行き過ぎた『反日』政策で、自国経済の首を絞めてはいけない」という意見があちこちで出るようになったのです。

(後編に続く)

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