写真:Rumbo a lo desconocido / Shutterstock.com
香港の抗議デモ隊と警察との衝突が激しくなる中、香港の人々の間から、元宗主国であるイギリスに助けを求める動きが起こっている。
1日には、「私たちは香港のイギリス人だ!」と香港のイギリス総領事館の前でシュプレヒコールを上げ、イギリスのパスポートを持つ香港の人々への英国籍の付与を求めるデモが行われた。
1997年の中国への返還前から香港に住んでいた人は、返還前に申請していればイギリスの海外市民パスポートを保有し続けられる。そのため当時、約300万人がイギリスのパスポート保持者となった。香港の人々にとって「いざという時の保険」としての役割を果たしていることが伺える。
サッチャーがトウ小平と交わした約束
香港がイギリス領になったのは、アヘン戦争終結の際の、1842年の南京条約による。このとき、香港島はイギリスに永久割譲され、九龍島も1860年に割譲された。さらに、1898年、イギリスは中国から新界を租借し、99年後の1997年に返還すると約束した。
その後、1980年代に、中国とイギリスの間に返還の交渉が始まった。当初イギリスは「返還は新界のみ」という姿勢だったが、当時の最高指導者であるトウ小平は、返還に応じない場合は軍事介入も辞さないとして香港島と九龍島の同時返還を求めた。結局、サッチャー英首相は同時返還で同意した。その際に発表したのが「中英共同声明」だ。
この声明では、「中国は一国二制度をもとに、社会主義を香港で実施しない」「香港の資本主義の制度は50年間維持される」「外交・国防以外は高度な自治権を認める」「行政管理権、立法権、独立の司法権および終審裁判権を有する」ことが確認されている。
中国が一方的に声明を反故に
ところが、現在の中国は中英共同声明を無視している。
2014年12月2日の英下院外交委員会では、中英共同声明について駐英中国大使館が、イギリスに対して「今は無効」という見解を伝えていたことが明らかにされた。当時の中国の駐英公使がこの共同宣言について「香港が中国に返還された97年までは適用されたが、今は無効だ」と発言。
一方、中国共産党・趙紫陽元総書記の秘書が、中英共同声明について「現在も有効」であるとして中国当局を批判。この宣言が無期限のもので、香港返還の基礎であり、無視すれば香港の主権が中国に属する前提が成り立たない、と強調している(9月6日付共同通信)。
「英国籍」を求める声
現在、「一国二制度」による、香港の高度な自治を守るという約束は反故にされている。北京政府の意向に沿わなければ選挙に出ることも認められず、言論の自由も認められない。市民は「デモ」によって国際社会に訴えるしか道がなくなっている。
そんな中、冒頭で紹介したように「イギリスが一肌脱ぐ」という選択肢が期待されているのだ。
イギリスの政治家も、その期待に応え始めている。英下院・外交委員会のトム・タジェンダット委員長は8月、イギリス国籍の付与に賛同する考えを表明。イギリス議会の公式サイト上では、この案について議会での審議に必要な10万人以上の署名がすでに集まっている。
前首相のテレサ・メイ氏も7月、中国政府に対する懸念を示し、「香港の高度な自治と自由を尊重することは極めて重要だ」と強調。現首相のボリス・ジョンソン氏も「香港の人々を支持しており、彼らのために喜んで声を上げたい」としていた。
大川隆法・幸福の科学総裁は9月3日に「習近平vs.アグネス・チョウ 守護霊霊言」を収録した。その中でアグネス・チョウ氏の守護霊は、ジョンソン氏に対し「 『私たちは、香港に責任がある』と。もし、そういうことを言ってくれたら、うれしいな 」「 『香港は、大英帝国の一員と見なす』って一方的に宣言したらいいんだよ 」「 実際、戦争しなくても、それを言っただけでも、すっごい腰引けるよ、あの習近平。面白い 」としている。
※「 中国共産党は「霊言」を認めた 香港・周庭氏の霊言で、日本と香港の離間を画策 」
「イギリスが香港を救う」という選択肢
こうした状況を踏まえると、「イギリスが香港の人々のために行動を起こす」とすれば、とりうる行動は以下の4つが挙げられる。
(1) 希望する香港の人々に英国籍の付与を進める
冒頭で紹介したように、パスポート保持者に英国籍の付与を認めれば、香港市民700万人のうち半数近くが英国籍を持てることになる。
(2) 英国籍の付与が進めば、「自国民保護」を名目にしてのイギリス軍の香港沖への派遣も
香港に住む人々への英国籍の付与が進めば、現在、香港で行われている政治参加・言論の自由の弾圧や、警察による圧力、暴力は、イギリスにとっては「国民を危機にさらす」行為と言える。「自国民保護」を理由にした、英国軍の香港近海への派遣により、中国による香港への弾圧についてもけん制できる。
(3) 香港を「イギリス連邦」の一員とみなす、と一方的に宣言する
香港は1997年の返還以降、イギリス連邦から外れている。今後、「中英共同声明の違反」を名目にイギリス連邦の一員とみなすと宣言することは可能だろう。そうなれば、香港近海へのイギリス軍の派遣について、連邦国を守るという大義も立つことになる。
(4) 香港と「合意なき併合をする」と宣言する
さらに踏み込めば、香港返還の基礎となった「中英共同声明」が成り立たなくなった以上、香港の主権が中国に属する前提も壊れると言える。イギリスが、「中英共同声明を守り、一国二制度、表現の自由などあらゆる自由が守られなければ、香港と合意なき併合をする」と宣言することも圧力の一つとなるだろう。
米・日とイギリス連邦の協力が必須
アメリカでは、ペンス副大統領が秋に「中国が香港問題を解決しない限り、貿易問題で合意できない旨を演説する」と報道されている。香港のアメリカ大使館前でも、中国への圧力を求めるデモが進んでいる。単独では中国共産党政府の軍事力に立ち向かえない香港の人々を守るには、自由主義・民主主義の国が表立って支援するほか選択肢がない。
米・日とイギリス連邦の国々、また、アメリカと同盟関係のある国が手を組むことが現在、もっとも確実な選択肢だろう。各国が軍隊を香港沖に送る、というのは、決して戦争・紛争を起こすためではなく、香港の人々を危機から救うためにもっとも現実的なけん制の手段である。
香港が中国に支配されれば、いずれ台湾、さらには沖縄への侵攻が目前のものとなる。イギリスはEU離脱問題で揺れているが、アジアの平和を守るための重要な鍵を握る国だ。日本としても未来を見据え、協力体制をとるべきではないだろうか。
【関連記事】
2019年9月9日付本欄 日本は邦人保護のための「自衛隊派遣」を表明し、米英と連携すべき【香港革命成就への道(1)】