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《本記事のポイント》

  • イギリスでファーウェイの機器を一部導入
  • 海底ケーブルの敷設にも抜かりないファーウェイ
  • アメリカは「ミリ波」で世界標準から遅れをとる?

イギリス政府はこのほど、次世代通信規格「5G」ネットワークを構築するにあたり、中国・華為技術(ファーウェイ)の機器導入を一部容認する方針を示した。

ネットワークの中核部分に関してはさすがにファーウェイ製品使用を禁止するが、アンテナなど中核以外の機器の導入は認めるという。

これは同盟国であるアメリカの動きと逆行する。

アメリカは、昨年の8月に成立した国防権限法で、ファーウェイ、ZTE、ハイテラ・コミュニケーションズ、ハイクビジョン、ダーファ・テクノロジーの中国企業5社がつくった製品や部品を、政府の情報システムで使用することを禁じた。もともとイギリスもこの方針に同調する方向だったものの、今回の決定で覆した形となる。

この動きを牽制するために、アメリカはヨーロッパの同盟国に対して「ファーウェイの5Gを導入すれば、情報の共有の仕方を見直さざるを得ない」と警告していた。これは、アメリカ務省のサイバー・ポリシーの担当者ロバート・ストレイヤー氏が、ブリュッセルで発言したもの。5月1日の米ウォールストリートジャーナル紙などが報じている。

ストレイヤー氏は、イギリスが一部導入するとしているファーウェイ製の5G技術についても、「専制国家の支配下にあるどの部分の技術も使用すべきでない」と述べた。

それでもイギリスは、ファーウェイ導入を決めた。

アメリカの警鐘が、国際社会においてどこか「空念仏」になっている感がある。その背景には、アメリカの戦略ミスがある。

中国が通信を支配すると何が起きるのか

その話に入る前に、ファーウェイに通信を支配されると何が起きるのかを押える必要があるだろう。

米下院情報委員会は、国防権限法の制定からさかのぼること6年前の2012年に、ファーウェイの徹底的な調査を開始した。そのレポートは、ファーウェイのバックドアによるスパイ行為を警告しているほか、送電網などの重要な社会基盤(critical infrastructure)についての通信を握られることを危惧している。

送電網にファーウェイの機器が使用されている場合、電気、ガス、金融機関、水道や鉄道などに対するサイバー攻撃を簡単に仕掛けられてしまう。そうなれば、ATMが使えない、水道水も出ない、電車が動かない、自動運転車の事故も多発する……。こうした事態で、社会は壊滅的な影響を受けてしまう。

また監視社会が拡大する可能性もある。現在、中国のモニタリング技術、つまり犯罪を減らすための"国民監視システム"を導入している国は18カ国。そして36カ国は中国から"世論操作のガイダンス"を受けているという(24日付ニューヨークタイムズ紙)。

海底ケーブルも着々と敷設するファーウェイ

またファーウェイが過半数の株式を保有するファーウェイ・マリンネットワークスは、すべてのデータ・音声を運ぶ海底ケーブルの90本の敷設にかかわっている。

世界には380本の海底ケーブルが敷設されてきたが、もともと海底ケーブルは、敵のスパイ活動を阻止するため、アメリカとその同盟国で敷設されてきている。

そうした重要なインフラが中国の「監視下」に置かれる可能性も出てきた。

また中国は、「デジタル・シルクロード」を謳い、「一帯一路」の沿線国に対して、ローンを組み、ファイバーケーブルや5Gの技術を提供。ネットインフラを建設することを推進している。

このサービスは、有事の際のネットの遮断、インフラの崩壊につながる。さらには、政府や活動家の監視までついてくる"とんだサービス"。まさに、「トロイの木馬」を引き入れるようなものだ。

アメリカは5Gで戦略ミスか

そうした懸念があるにもかかわらず、イギリスなどが、ファーウェイ製品をインフラに導入しているのだ。

"困ったこと"に、ファーウェイの製品は昔の中国製品のイメージでつきものだった「安かろう」「悪かろう」からは程遠く、低価格の上にクオリティも高い。「背に腹は代えられない」と、多くの国が導入してしまうのも、分からなくもない。

これに対抗するためにアメリカは国防権限法でファーウェイ排除を呼び掛けるが、思ったほど成果を上げていない。

その理由の一つは、「とにかくファーウェイはダメだ」と訴えるものの、「ではそれに代わる安くて、良質な技術はないか?」という疑問に答えられていないのだ。

現在、ノキア、エリクソン、サムソン、ファーウェイが5Gの4巨頭で、世界標準を作りつつある。トランプ氏は、世界標準規格とは別の規格で、国内企業の開発を進める方針だ。

詳しく説明すると、アメリカは「ミリ波」と呼ばれる高い周波数帯の電波を通信会社に割り当てる方針を決めた。しかし海外で主に使用されているのは、ミリ波ではなく、「サブ6」と呼ばれる周波数帯。

アメリカで5Gが広がっても、世界標準がサブ6の周波数帯となれば、アメリカの5Gは世界で採用されない。5Gからのファーウェイ排除を訴えるアメリカの、肝心な自国技術がガラパゴス化していく可能性が高いのだ。

それに危機感を抱いているのが元下院議長のギングリッジ氏だ。現在、国防総省はサブ6周波数帯の5Gの技術を持っているため、いまそれを同盟国に共有すべきだとホワイト・ハウスに働きかけている。

西側は団結し代替手段の提供を

そうした中、ファーウェイ等の製品とどう向き合うか、日本も決断を求められている。

4月半ばに北京で開催された日中ハイレベル経済対話で、中国の王毅外相は5Gの入札からファーウェイを排除しないよう、日本に求めてきたという。

日本は同盟国アメリカと歩調を合わせ、昨年12月に通信や端末、サーバーなどの9項目について安全保障上のリスクがあるような製品、部品は調達しない方針を確認した。政府調達に加えて、通信や金融、航空といった14の「重要インフラ分野」では防衛策を促すという。

また各国がどのような措置を講じているのか、年内までに調査し、その内容を重要インフラ業者らにサイバー攻撃への対処を促す「安全基準等策定指針」に反映する予定だという。4月16日付で日経新聞が報じた。

「世界の動きを見て戦略を考える」のが日本的なのかもしれないが、それは「戦略がない」ことの裏返しではないだろうか。

今後、世界中でファーウェイの機器を「どこまで導入できるのか」といった議論が始まってしまいかねない。したがって同社製品を警戒すべきであるのはもちろんだが、それだけで終わってはならない。いま必要なのは西側が団結し、5G、また次の6Gの開発でファーウェイを超える技術の提供を目指すことではないか。

このままでは10年後、中国の5Gに支配されてしまうだろう。その時、世界は中国共産党のデジタル全体主義の支配下に置かれ、インフラ攻撃の脅威にさらされる。代替手段がなければ、質の高いインフラをファーウェイが提供しつづけ、お金のない途上国はファーウェイを導入する動きは止まらないだろう。このような事態を避けるために、西側は団結し、ファーウェイを上回る技術の開発と提供を急がなければならない。

(長華子)

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