《本記事のポイント》
- 厚労省の「毎月勤労統計」の不正が大炎上
- 消費増税のダメージを隠す、もう一つの"不正"にも注目
- 安倍政権は選挙前に「かさ上げGDP」をPR!?
日本経済は、「高度計」が狂ったままで操縦されていたらしい。
厚生労働省が発表する「毎月勤労統計」に不正があったとして、大炎上している。この統計は、国民の賃金などを調査するもの。経済政策の前提になる重要な指標だ。
本来、東京都の大企業(従業員500人以上の事業所)の全社が調査されることになっていた。しかし実際は、2004年からなぜか一部の企業しか調査されていなかった。つまり、「隠れ手抜き」がなされていたのだ。
その結果、賃金の平均が0.6%ほど「底下げ」して算出された。これにより、平均賃金を元に算定される労働保険の給付金が少なく支払われてきたことになり、「損」をした人たちからは怒りの声があがっている。
「毎月勤労統計」のもう一つの傷
この「毎月勤労統計」にはもう一つ、ある意味で"より深刻"な傷がある。それは「2018年から調査方法を変更し、景気が良くなっているように見える」ということだ。
どれほど「良くなっている」ように見えるのかは、編集部作成の上グラフをご覧いただきたい。これは実質賃金の推移を示したもの。「変更前」の賃金水準を見ると、「消費増税で景気が大きく落ち込み、そのまま停滞が続いている」という経済状況が分かる。一方、「変更後」の賃金水準では、「増税で景気が落ち込んだが、順調に回復している」ように見える。
何が変わったかと言えば、調査対象となる企業の選び方が変わった点だ。簡単に言えば、「学校のクラスの成績水準を調べるために、サンプルとして選ぶ生徒が、優秀な子ばかりに変えられた」というイメージだ。
にもかかわらずマスコミは昨年9月、「実質賃金0.4%増 3カ月連続のプラス」(読売新聞)などと報じている。これは、「1月と2月と3月の実質賃金が、どれも前年よりも高かった」という"朗報"だが、何のことはない。年をまたぐと、統計手法が変わり、賃金が高めに出てしまうだけの話だ。
そもそも比較するものではないし、以前と同じ統計手法であれば、「前年よりもマイナス」の月がちらほらあった。
こうした"大本営報道"が、ちょうど安倍晋三首相が「消費税を予定通り引き上げる」と表明した昨年秋に行われた。「判断をミスリードした」可能性を考えると、この「隠れ変更」は、平均を「底下げ」していた今回の不正に劣らず、「罪深い」といえる。
選挙前に「かさ上げGDP」をPR!?
他にも政府の統計には様々な疑問が向けられている。
例えば国内総生産(GDP)も、政府は2015年度から算出方法を変えた数字を発表し始めた。これによりGDPが30兆円かさ上げされたのだが、2017年の衆院選で自民党広報は「名目GDPはこの5年間で50兆円増加! 過去最高の水準です」とツイートし、ひんしゅくを買った。
つまり、アベノミクスの重要な「高度計」であったはずの「毎月勤労統計」や「GDP」がズタズタの状況にある。高度が低めに出るうえ、本当は下降中であるにもかかわらず、「上昇」しているように見える。実際の飛行機なら修理工場行きだ。
こうした状況の中、"身内"の日本銀行さえも疑心暗鬼になり、内閣府に「GDPを算出する元になった統計データを渡してくれ」と要請している。政府は「忙しい」と渋っており、さらなる不信感を呼んでいる。
統計の信頼性を取り戻すためには、徹底した情報公開が求められる。
(馬場光太郎)
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