《本記事のポイント》

  • マルコ・ルビオ米上院議員らが、カナダにもファーウェイの排除を求める
  • 通信インフラをファーウェイに頼れば、サイバー攻撃の危険と隣合わせ
  • 中国は5Gと監視カメラで全世界を監視下に置くつもり

米マルコ・ルビオ上院議員やマーク・ウォーナー上院議員は、カナダの第5世代通信(5G)から、中国の通信機器大手のファーウェイを排除するように、カナダのジャスティン・トルドー首相に書簡を送った。10月13日付のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙が報じている。

カナダは、アングロサクソン系5カ国(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の諜報機関で構成される国際諜報同盟「ファイブ・アイズ」の一員。カナダが、ファーウェイなど中国政府と密接な関係にある企業の次世代高速通信システムに依存すれば、情報網全体を危機にさらす可能性がある。特に、軍事関連の通信を傍受されれば、戦略が筒抜けとなって安全保障上の脅威となる。

すでにアメリカでは、8月の国防権限法の成立によって、米政府機関および米政府と取引がある企業でのファーウェイとZTEの機器の使用が禁じられた。ファーウェイの携帯にはバックドアが組み込まれ、個人情報が抜かれていることが明らかとなったからである。

トランプ大統領の安全保障チームは、今年1月に3年以内に政府による5Gのネットワークの構築を検討するとしている。中国の諜報活動に対抗するために、AT & T、ベライゾン、Tモバイルなどのモバイル通信会社の仕事を引き継ぐ形で行うという。

危惧されるインフラへのサイバー攻撃

日本政府は、日本の通信インフラに与える影響を考慮して、ファーウェイやZTEを規制すべきだが、対応は後手に回っている。

一方、アメリカは、議会を中心に着実な手を打ってきた。

最終的には外国投資委員会(CFIUS)によって阻止された3Comに対する買収案件に見られるような、ファーウェイの技術獲得を疑問視した米議員は、徹底的な調査を開始。6年前の2012年、米下院情報委員会は、その調査に基づく詳細なレポートを発表している。

このレポートにおいて、とりわけ危惧されているのが、送電網など重要な社会基盤(インフラ)の通信を握られることだ。

海外での事業収益が全体の6割を占めるファーウェイは、アメリカでの国防権限法の成立直前に、ロビー活動を展開。アメリカからファーウェイを排除すれば価格競争の制限となるため、消費者が不利になり、かつ、イノベーションも妨げると主張した。

だが、「安ければいいだろう」ということで、送電網にファーウェイの機器が使用されている場合、電気、ガス、金融機関、水道や鉄道など、サイバー攻撃を簡単に仕掛けられる危険と隣り合わせになる。9月に北海道で起きた地震の際の「停電パニック」を、中国は簡単に引き起こせるということだ。

アメリカが国防権限法に基づいて成立させた対米投資強化法において、重要なインフラへの投資も規制の対象とするなど、商業の論理より、安全保障を優先したのはこのためである。

国防権限法成立以前の2017年12月、米上下両院の情報委員会のメンバーである議員がFCC(米連邦通信委員会)を通じ、AT&T社がファーウェイの携帯を顧客に提供することを断念させている。私企業の事業計画を、国民の安全保障を理由として変更させた事例として参考になる。

監視カメラ産業に群がる投資家たち

また、次世代の大容量通信を可能にする5Gが、監視カメラの顔認証技術などと結びつけば、監視社会がより一層強化される。

現在のところ、中国政府は2020年までに6億2600万台の監視カメラを設置する予定だ。

監視カメラの技術で有名なのが、中国のハイクビジョンとダーファ・テクノロジー。この2社で世界の監視カメラ市場のシェアの4割を超える。

ハイクビジョンは、中国の治安当局に対し、「少数民族に属するかどうか」を判定する技術があるとして自社の製品を売り込んできた。新疆ウイグル自治区のウルムチで、3万台の監視カメラを設置する計画を受注するなどし、昨年だけで売上を30%伸ばしている。

ハイクビジョンに関しては、株式の4割を国有の軍需企業のCETCが保有するなど、中国共産党と密接な関係がある企業。2018年4月に米インテロス・ソルーションズが公表したレポートでも、ファーウェイやレノボとともにアメリカが警戒すべき企業の一つとして挙げられている。

しかし金融業界は、倫理的なリスクのある中国のテクノロジー企業を「買い」だと推奨し、間接的に一般の投資家たちを中国の人権弾圧に加担させている。投資家たちも知ってか知らずか、「人種主義」の片棒を担いでしまっている。

日本に目を転じれば、ソフトバンクがファーウェイと5Gの実証実験を行い、中国の5Gの規格化に手を貸している。だがファーウェイが次世代通信規格の開発に成功すれば、ウイグル人等の弾圧、中国人の総監視社会の完成を間接的に支援することになる。

監視カメラと5Gがつくる全世界監視

それだけでない。中国は、スマートシティを国内で構築し、そのネットワークを巨大経済圏構想「一帯一路」の沿線地域である東南アジアなどに輸出する。つまり中国の5G戦略は、中国の監視モデル体制の世界への輸出でもある。

これは現代版コミンテルンともいえる。1919年にレーニンが発足させた共産党の国際組織であるコミンテルンは、全世界の共産主義化と全世界同時革命をその使命とした。現代は、それが5Gや監視カメラ、AIの技術によって可能となる。

中国のスパイ進出の先進国ともなったオーストラリアでは、ファーウェイに対し、次世代通信規格である5Gを使った同国の無線ネットワークへの参入を禁止した。第4世代(4G)では、5割超の通信設備にファーウェイを採用しているのにもかかわらず、である。

日本は中国の5G覇権を迎え撃つ戦略を持て

イギリス、オーストラリア、さらにロシアでも規制に向けて動き始めている。

10月12日付のロイター紙のスクープによると、中国の海外投資や国内工作に対抗するために、年初よりアングロサクソンの国際諜報同盟「ファイブ・アイズ」に日本とドイツとを加え、情報が共有されているという。

アングロサクソン圏では、早くから対中包囲網の構築の必要性が共有され、そこに日本もドイツも加わってほしいという要請があったと見ていいだろう。

だが、日本にはスパイ防止法がないために秘密保全の措置がまだ不十分だ。一刻も早くスパイ防止法を制定する必要がある。

さらに中国のサイバー攻撃から国民を守るためにも、中国製の監視カメラや次世代通信規格を日本の産業から排除すべきだろう。

先にも述べたように米通信大手AT&TはFCCの警告を受け、ファーウェイの携帯を顧客に提供するのを断念している。日本も、「国民の安全」を守るために、政府が私企業の事業計画を変更させることも視野に入れるべきだ。

日本は、来年からポスト5G の研究開発に乗り出すという。欧米諸国と協調しつつ、6Gで中国を迎え撃つ戦略が急務となる。

(長華子)

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