《本記事のポイント》

  • トランプ政権が中国に制裁関税を発動し、中国も報復措置をとる
  • アメリカの次なる標的は、IMFか?
  • WTO、IMFと同じく国際機関である国連の改革にも着手

アメリカのトランプ政権は6日、中国による知的財産の侵害を理由にした制裁関税を発動した。航空機や半導体、産業用ロボットなどの総額340億ドル(約3兆8000億円)相当の中国製品に25%の関税を課し、中国も即日、報復関税を発動するなど、「貿易戦争」が本格化している。

これについて、各メディアでは「貿易戦争はアメリカが仕掛けたもので、中国はそれをやり返しただけであり、アメリカの方が悪い」という見方が強い。「関税を課ける前に、世界貿易機関(WTO)のような多国間の枠組みで話し合えばいい」という意見も見られる。

しかし、WTOが貿易紛争の結論を出すのに数年かかる。また、国際ルールを無視してきた中国の暴走を食い止められないでいるのは周知の事実でもある。そのため、WTOの紛争処理を担う上級委員会の裁判官の欠員をめぐり、トランプ氏は新たな裁判官の指名に拒否権を発動。WTOは事実上、機能不全となっている。

アメリカはWTOに頼らず、二国間交渉として、貿易赤字問題を解決しようとしている。

アメリカの次の標的はIMF?

そんなトランプ氏の次なる標的となるのは、国際通貨基金(IMF)だろう。

IMFは長年、富裕層への増税や財政再建を世界各国に薦めてきた機関であり、アメリカの政策と真っ向から対立している。事実、IMFは、トランプ減税に反対を唱え、通商政策にも批判を加えている。

アメリカは、IMFに対して最大の供出金を出している。今後もトランプ氏を批判し続ければ、次なる標的になる日は遠くないだろう。

だが皮肉なことに、トランプ減税によって、アメリカの経済指標は好調を記録している。その影響により、IMFが4月に発表した「世界経済見通し」では、2019年の世界の経済成長率は、2011年以降で最も高くなると予想している。

IMFの言うことを聞かない方が、世界経済にとってはプラスに働いている。

戦後秩序を築いてきた国連にもメスか

さらにトランプ氏は6月中旬、同じく国際機関である国連人権理事会からの脱退を表明した。国連のグテレス事務総長と会談でトランプ氏は、「世界中で紛争解決のために国連がより多くのことをすれば、米国がなすべきことが減って、お金を節約できることになる」と述べ、国連改革の必要性を指摘している。

国連の安全保障理事会が北朝鮮の核開発を何度も非難しても、北朝鮮から核兵器がなくなることはなかった。WTOと同じく、安保理も事実上、機能不全に陥っているため、トランプ氏は、北朝鮮との直接交渉に乗り出したわけだ。

こうしてみると、トランプ氏の問題というより、戦後秩序を築いてきた国際的な枠組みが、現実の脅威や課題を解決できないでいるのが、そもそもの問題であると言えよう。

トランプ氏は、WTO、IMF、国連の改革に踏み出している可能性がある。アメリカが新しい国際秩序の構築に動き出している今、日本も既存の秩序にとらわれることなく、新しい国際秩序作りに参加した方が国益にかなうのではないか。

(山本慧)

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