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《本記事のポイント》

  • 非核化交渉は北朝鮮ペース
  • 「会談は引き分け」「交渉は負け」!?
  • 騙されたふりをして、後で"ブチ切れる"高等戦術か……?

全世界が見守る中、トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長は12日、シンガポールで首脳会談を行った。

会談の内容を素直に見れば、非核化交渉は北朝鮮ペースで進んだと言える。

両首脳が会談後に署名した共同合意文書を読むと、金正恩氏の高笑いが聞こえてくるようだ。文書には「北朝鮮に安全の保証を与える」「『板門店宣言』を再確認した上での、朝鮮半島の非核化」という内容が盛り込まれた。

最初の「体制保証」は、北朝鮮が最低限引き出したかった言質だ。これでトランプ政権は、よほどのことがない限り、軍事行動ができない。金正恩政権は安心して、「時間稼ぎ」をすることができる。

次の「朝鮮半島の非核化」も、金正恩氏側の「ただでは非核化しない」という姿勢を反映したキーワードだ。トランプ氏は会談後の記者会見で、「(在韓)米軍の数を減らすことは考えていない」と語った。しかし、「半島の非核化」という文言を素直に読めば、「北朝鮮が核を放棄する代わりに、アメリカも半島から核を持った米軍を追い出す」という交渉に持ち込まれかねない。

一方、トランプ政権側は、非核化の具体的な方法にまで踏み込めなかった。ポンペオ米国務長官は11日、「『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』(CVID)がアメリカの受け入れられる唯一の成果だ」と述べていた。しかしその成果も、今回は"おあずけ"となった。

もちろん、「まだ結論が出ていないだけ。これから交渉が始まる」という見方もあるだろう。トランプ氏も記者会見で「時間がなかった」と"弁明"していた。

しかし、金正恩政権の目的は「時間稼ぎ」であり、その成果を確実に手にしている。そしてトランプ政権側の「唯一の成果」は無かった。つまり、会談が「引き分け」「先延ばし」で終わったことは、交渉としては「北朝鮮の勝ち」ということになる。

そして、同じような交渉を繰り返している間に、中国、ロシアなどを含む複雑な国際情勢はどんどん北朝鮮に有利に動きかねず、下手をすればトランプ政権の任期が終わってしまう――。

もっとも、そんなことはトランプ氏も分かっているだろう。

一つの可能性としては、トランプ氏はそれを承知で、本格的な妥協路線に入ってしまったのかもしれない。11月の中間選挙の勝利を求めて目先の成果を焦ったパターンだ。

もう一つ、希望的観測を含んだ可能性を考えるとすれば、「敢えて騙されたふりをして、後で"ブチ切れる"つもり」という高等戦術を行っているパターンがある。北朝鮮が本気で非核化をやり遂げる可能性は低く、どこかの段階で、合意を破棄するだろう。その時点で、トランプ政権は、軍事行動をする正当性を得る。

いずれにせよ、日本としては最悪のシナリオに備えて、独自の核装備も含めた国防強化を進める必要がある。

(ザ・リバティWeb企画部)

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