《本記事のポイント》

  • 突然、突きつけられた初耳の税金――「5年分、支払え」
  • "石を投げて当たった"ら払う税金!?
  • 開業時は「納税義務を果たそう」と気を引き締めていたが……

日本企業の8割以上が小規模事業者だ(*1)。その多くにおいて、経営者の妻が経理を担っている。

経理担当となると、税金周りの仕事も担うことになる。帳簿をつけ、領収書を集め、確定申告の書類を作成して、納税手続きをし、そのための資金繰りに走り回る。

会社の財務状況など知る由もない社員は、「給料が少ないのは会社がケチだから」などと思っているかもしれない。

社長であっても、財務状況を細かく見なければ、「使える資金が少ないのは収入が少ないから」と思うかもしれない。税金が、どれだけ自分たちの首を絞めているのかは、意外と実感しにくい。

しかし"経理妻"は、「小さな会社を経営するにおいて、税金がどれほど会社に負担を強いてリスクとなっているのか」を目の当たりにしている。本欄では、前回、前々回に引き続き、そんな彼女たちの声に耳を傾ける。

(*1) 小規模事業者とは、従業員が製造業で5人以下、サービス業で20人以下の事業。

突然、突きつけられた初耳の税金――「5年分払え」

東京都内で、ご主人と二人で飲食店を経営しているCさんも、いわば"経理妻"として、税金周りの仕事をすべて任されている。特に年末年始は、店としても忙しくなる上、確定申告の準備をしなければならない。そんな多忙を極める中、役所からある書類が届いた。

「見知らぬ税金の納付を求める書類でした。『償却資産税』という税金です」

「償却資産税」とは、地方自治体が管轄する固定資産税の一種だ。固定資産税といえば、土地などにかけられるイメージが強い。しかしあまり知られていないが、店の冷蔵庫などの設備にも、税がかけられる場合がある。

Cさんは、書類の詳細を読んで驚いた。なんと、店の内装が「資産」とみなされ、課税対象になっていたのだ(*2)。Cさんは語る。

「この税の存在そのものに、理不尽さを感じました。というのも、国に納める税では、店の内装は『経費』として計上されます。つまり、課税対象の利益から、差し引かれる扱いのはずなんです」(*3)

国から「経費なので課税しない」とされているものが、都からは「それは資産だから課税する」と言われる――。普通の市民感覚としては、矛盾を感じる内容となっている。

「うちの店は、賃貸の物件に内装工事をしています。そのため、内装自体は、店をたためば意味がなくなり、私たちが個人で使うわけでもありません。なぜ資産になるのでしょうか」

(*2)工事費から、年月が経って古くなった分を考慮した額が差し引かれ(減価償却)、そこに税金がかけ続けられるという。
(*3)厳密には、大きな設備等の購入費は、一度には計上されない。何年かかけて、少しずつ経費にしていく会計処理がなされる(減価償却)。

"石を投げて当たった"ら払う税金!?

徴収のやり方にも違和感があったという。Cさんは語る。

「『償却資産税』なんて税の存在は、20年間経理をやってきて、初めて知りました」

Cさんは、知り合いの飲食店経営者にも、同税の存在を知っているか聞いてみた。しかしほとんどが「初めて聞いた」と答えた。もちろん、納税を求める書類が届いたのも、Cさんの店だけだった。

Cさんは、税制に詳しい人に話を聞いて、驚いた。

「『償却資産税』は払っていない人が多く、巷では『グレーゾーン』と言われているそうです。でも、役所関係者が地域をぐるぐる回って、新しいお店や、払ってなさそうなお店を探しているんだとか。それで、この税金を払っていないところをみつけては、さかのぼって納めるように通知するようです」

実際、Cさんが同税について役所の相談窓口に問い合わせたところ、「あ~あなた、当たっちゃったんですね」というような対応をされたという。さらに書類の送付元にも、「なぜ、うちの店なのか」と問い合わせた。返ってきた答えは、「雑誌で店を知り、調べたら、納付されていなかったので……」

つまりこの税は事実上、"石を投げて当たった"店が払う仕組みになっているのだ。

「確定申告の忙しい時期に、何の前触れもなく、『5年分さかのぼって納めろ』『1カ月以内に納めろ』って言われたんです。とてもびっくりしました。うちは小さい規模の店なので、予期しない大きな額の出費は死活問題です」

開業時は「納税義務を果たそう」と気が引き締まったが……

こうした税やその徴収方法について、Cさんは深くため息をつきながらこう語る。

「最初にお店を開業した時には、『小さいお店だけど、納税義務はちゃんと果たそう』って気持ちを引き締めていたのを覚えています。でも今、いろんな実態を知って、そんな気持ちもどんどん萎えています。

まず納めるものが多すぎますよね。健康保険に年金も、事実上の税金です。それに、所得税、都税、区税……。

それでも何とか必死に払っているのに、今回みたいに、聞いたこともない税金を『知らなかった方が悪い』と言わんばかりに、当たり前のように、突然5年分も請求されるようなことがあると、本当に嫌になります」

もちろんその税金が、本当に有効に使われていれば、納得の余地もあるのだが……。Cさんはこう訴える。

「例えば今回の『償却資産税』は都税なので、小池百合子・都知事たちの采配で使われるわけですよね。それなのに、豊洲移転で大騒ぎして散々無駄遣いしたり、パフォーマンスばっかり……。近所でお店をやっている知り合いで、元々小池さんを応戦していた人も、めちゃめちゃ怒っていましたよ。国も国で、単年度予算でたくさん無駄遣いをして、公務員の給与も上がり続けている。

一方、税金を納める側の私たちは、本当にいつもぎりぎりです。私たちみたいな個人のお店は、自己資金で開業して、いろんなリスクをかかえながら経営しています。増税なんかで景気が悪くなっても、お客様が離れないように料金を抑えたり、経費を削ったり、一生懸命なんです」

こうした中、さらに当たり前のように増税を進める政府に、果たして正当性はあるのだろうか。

【関連記事】

2018年4月2日付本欄 自営業の経理妻を泣かすブラック税制 徹夜、倒産危機、徒労感(1)

https://the-liberty.com/article/14306/

2018年4月10日付本欄 私、生活保護と税務署のために働いているの? 経理妻を泣かすブラック税制 (2)

https://the-liberty.com/article/14325/