《本記事のポイント》

  • ブロックチェーンは「錬金術」ではなく「情報管理技術」
  • 技術はすごいが、問題は管理する情報の「中身」だ
  • 「徳あるリーダーを立て、信頼する」は人類の知恵

「自衛隊のイラン派遣時の日報」「森友学園への土地払い下げに関する決裁文書」「南スーダン派遣時の日報」「加計学園に関わる『総理のご意向』文書」――。

行政による公文書の改ざんや、隠ぺいを疑われるような事例が相次いでいる。

なぜこれほど騒がれているのかというと、「文書主義」が官僚の信頼性を担保する、最大のものの一つだからだ。「何があったか」「誰が、どう意思決定したか」を記録・保存し、後からチェックできることで、行政の公正さが保たれる。

もちろん、「北朝鮮問題などを脇において議論すべきことか」は疑問だが、確かに官僚の存在意義を崩しかねない話ではある。

ブロックチェーンは「錬金術」ではなく「情報管理技術」

こうした公文書への不正を防ぐため、「ビットコインの技術を使うべき」という意見が出ている。

どういうことか。

ビットコインの仕組みにあまり馴染みがなければ、「お金をつくる技術で、なぜ公文書を管理できるのか」と思うかもしれない。しかしビットコインの本質は、錬金術ではない。革新的な「情報管理技術」なのだ。

電子マネーは、情報の集積でできている。

例えば、私たちの銀行口座は(厳密には電子マネーではないが)、銀行にある個別金庫でも、名前の書いた札束のことでもない。「誰が、何円持っている」という記録・情報でしかない。そして、銀行がその記録を、誰も書き換えないように管理しているわけだ。

また、スイカなどの残高も、「どのカードにいくら入っている」という記録・情報によってのみ、保証されている。その情報もJR東日本が、誰かに改ざんされないように管理している。

しかし見方を変えれば、銀行残高や電子マネーは、銀行やJR東日本などの組織が「絶対に不正をしない」という暗黙の信頼の上に成り立っている。

しかし中には、そんな状況を「怖い」と感じる人もいる。「政府や企業などの大きな組織や権力は、信用ならないことが多い」と考える人たちだ。

そうした人たちは、「中心で情報管理をする組織や人がいなくても、『誰がいくら持っているか』という情報が間違いなく保存される仕組みをつくりたい」と考えてきた。

それを可能にしたのが、「ブロックチェーン」という技術だった。「不特定多数の人が記録を共有し、お互いにチェックし合うことで、情報の改ざんを防げる」という発想だった。

この技術を、電子マネーの残高記録に応用したのが、ビットコインだったとも言える。つまりビットコインは、錬金術ではなく、"保金術"なのだ。

「この情報管理技術を、行政文書の管理にも応用しよう」というのが、今持ち上がっている話だ。どちらも、権威ある組織への不信感がベースになっている点で、共通している。

公文書をワードやPDFなどの形で保存し、「ビットコインの各自の残高情報」と同じように、分散管理する。そして、誰かが書き換えれば、つじつまが合わなくなるようにする。文書は電子化されているので「もう破棄しました」という言い訳も通用しなくなるというわけだ。

あまりに行政の不祥事が続くようなら、本格検討する価値はあるだろう。

技術はすごいが、問題は管理する情報の「中身」だ

とはいえ、公文書管理にブロックチェーンを導入しても、効果は薄いという見方もある。

なぜなら「もともと嘘の文書を保管すれば、意味がない」ためだ。確かに、改ざんが出来ないシステムになれば、最初に記録する段階で、問題になりそうな記述は省いたり、書き換えたりする心理も働きうる。

ブロックチェーンは、あくまでも「情報管理」技術であって、そこに記録される情報の質そのものを担保するわけではない。

同じことは、ビットコインにもいえるだろう。

確かに、「誰が、何ビットコイン持っているか」という情報は、管理者がいなくとも、正確に記録され、改ざんされる可能性は低い。これは、画期的なことだ。

しかし、そこに"間違いなく"記録されているところの「ビットコイン」という通貨単位が、「実際の世界でどれだけの価値を持つのか」「何があってもその価値を保ち続けられるのか」は別の問題となる。

それは、テクノロジーうんぬんというよりも、経済学における貨幣論の話だ。そして経済学者の大方の見解は、「発行者もおらず、ゴールドなどの裏づけもないお金の単位が、『採掘が大変だ』という理由だけで、安定的な通貨となる可能性は低い」という懐疑的なものとなっている。

「徳あるリーダーを立てる」は人類の知恵

「リーダーを立てて、ある程度信頼しながら、社会を運営する」というやり方は、人類が最初に生み出した知恵の一つではないか。もちろんそこには、「暴君の出現」「権力の腐敗」といったリスクがつきまとう。そうしたリスクを減らすために、民主主義などの、様々な発明もなされてきた。それでも、リーダーを立てて運営するという仕組みは消えない。

行政にしても、通貨の発行・維持という仕事にしても、同じことが言える。

公文書の問題の解決策も最終的には、官僚が「公僕としての誇りや誠意、徳」を取り戻すことにかかっているだろう。

(馬場光太郎)

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