《本記事のポイント》

  • 資金調達のハードルが下がり、詐欺のハードルも下がる
  • 石原銀行大失敗の教訓
  • 「あぶく銭は身につかず」

金融庁が、仮想通貨を発行して資金調達を行う、「新規仮想通貨公開(ICO)」への監視強化に乗り出す。27日付産経新聞が報じた。

ICOとは、企業が株式・社債などの代わりに、独自の仮想通貨を発行することで、資金を集める手法だ。企業が新しく株式を発行する「新規公開株(IPO)」に代わるものとして、注目されている。

資金調達のハードル下がり、詐欺のハードルも下がる

この方法であれば、企業や企業家は、まだ事業が構想段階でも資金を集めることができる。証券会社・取引所による煩雑な書類審査や、何回も行われる面談なども必要ない。ホームページに「ホワイトペーパー」と呼ばれる簡単な計画書を載せておき、投資家がそれに納得すればいいのだ。

このICOへの期待は、「資金調達のための、高いハードルが、多くのベンチャーの可能性を奪っている」という、既存の金融機関・金融の仕組みへの不満から生まれている。

まだ実績もないが有望な起業家や事業にチャンスを与えるものとして、ICOには「金融を変える」という期待もある。これが、「仮想通貨が世界を変える」と言われる所以の一つだ。

しかし、審査によるお墨付きも、法規制もないことには、当然、裏の面もある。お金を集めたまま事業が計画倒れになる事例や、お金を集めた"企業"が突然姿をくらませる詐欺が、世界で後を絶たないという。

そこで金融庁は、何らかの法改正で対応し、不適切なICOに対しては、差し止めも含めて検討する方針だという。

「既存の金融業界の保守的・役所的な体質」を問題視する声は多いが、かといって、資金調達のハードルを無制限に下げるだけでは、「投資者が馬鹿を見る」ことが増えるだけになりそうだ。

石原銀行大失敗の教訓

このICOへの期待とリスクは、石原慎太郎・元東京都知事が立ち上げた「新銀行東京」を想起させる。

「雨の日に傘を取り上げるような銀行は信用できない」

そんな掛け声から生まれ、「石原銀行」などと呼ばれたこの金融機関は、「スコアリング融資」という、面談などの煩雑な手続きをせず、財務データなどをシステムに入力すれば、迅速に無担保・無保証融資をするという、"革命的"な金融業務を行った。だが、経営は3年で行きづまり、投資された1400億円もの税金が失われることになった。

企業ドラマなどでは、「頭が固く、冷淡な銀行家」が憎まれ役としてよく出てくる。実際に、事業の可能性や、企業家の資質を見抜けず、表面上の財務状況などだけを見る画一的な銀行業務は、日本経済の一つのボトルネックとしてよく指摘されている。

しかし、だからといって、役所が画一的に融資条件を緩くするだけでは、焦げ付きが増えるだけだった。

「あぶく銭は身につかず」

同じことが、IPOにも言える。株式を公開するための手続きは、確かに煩雑で非効率的で、改革すべき部分もあるかもしれない。しかしそんな中にも、企業家への"試練"としての意義は大きい。

審査が煩雑で厳しいからこそ、詐欺的なことを企む人は排除される。さらに、自分の事業を第三者の厳しい目で見る機会を得る。「事業内容と可能性を、頭の固い人にも伝えられるか」という、事業家には欠かせない説得力のテストにもなる。

そして何よりも、苦労をして調達した資金は、それだけ慎重に、大切に使うだろう。「あぶく銭は身につかず」とよく言われる。面倒くさく、時に理不尽にも見えるシステムの中にも、汲むべきものはある。

(馬場光太郎)

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