財務省資料を元に編集部作成

《本記事のポイント》

  • 財務省の挙げる「税収減の原因」に疑問
  • 消費支出が34万円も吹っ飛んだのに、一言も触れられない!?
  • 今までの増税と同じパターンを繰り返しつつある

財務省が発表した、2016年度の税収が、7年ぶりに前年度を下回ったことが、話題を呼んでいる。

全体の税収は、前年度より0.8兆円少ない55兆4686億円だった。法人税も5000億円減り、所得税も2000億円減り、消費税も2000億円減っている。各税収項目が、軒並み下がっている(上図)。

税収減の原因は「円高」「株価」!?

ここで気になるのが、財務省の"言い訳"だ。

7日付日経新聞の朝刊は、税収が減った理由について、「財務省は税収の大幅減は『特殊要因が大きい』と説明する」と報じている。

法人税が下がった理由として、「年度前半の円高で企業業績に陰り」と説明されている。「イギリスのEU離脱などの影響で、円高になったので、企業の輸出が減ったせい」という理屈だ。しかし、日本の経済規模(GDP)に占める、輸出(純輸出)の比率は1%ほどに過ぎない。

また所得税が減った理由については、「株価伸び悩みで譲渡所得減る」と書かれている。「株価が上がらないので、株を売った時などの収入にかかる税金が減った」ということだ。しかし、所得税収における、「株式等の譲渡所得等」の内訳は、5%程度に過ぎない。

財務省も各新聞も、税収が減った原因を、円高や株価など、経済全体にとっては"些細"なものばかりに求めているように見える。

壊滅している「消費」の二文字が出ない

一方、様々な経済指標を見てみると、経済規模(GDP)の60%近くを占める消費が、悲惨な状況だ。

下の図は、世帯ごとの消費支出の推移だ。2014年から、2017年の間に、各世帯の消費は年34万円も減ってしまっている。サラリーマンの月収、1カ月分だ。

総務省統計を元に編集部作成。「1世代1カ月間の収支(2人以上の世帯)の各年1月の名目消費支出額を、消費者物価指数(2017年1月基準)を用いて実施値とし、年間の消費に調整。藤井聡氏著書を参考

こうした「消費が弱い」「デフレから抜け出せない」という指摘は、GDPが発表されたり、日銀の失敗を語る時には、各新聞とも書いていることだ。なのに、なぜ税収の話になったとたん、「消費」の二文字が消えるのか。いささか不自然だ。

財務省は「2019年の増税延期をさせない」を目標としている

動機はある程度、予想がつく。財務省には、「2019年秋の消費税10%への引き上げを、再延期させない」という目標があるのだ。

内閣が6月に発表する、財政政策の方針のベースとなる「骨太の方針」から、前年まで書かれていた「消費税」についての言及が消えたことが、話題になった。「消費税がいけなかった」ということを、政治家は知っているのだ。今後、「消費税10%」を巡る、内閣と財務省の水面下の対決は、本格化してくるだろう。

そうした中で、財務省が「消費税のせいで、税収まで腰折れした」という認識を、持たれないようにしている。

各メディアも、財務省の公式発表を表立っては否定しない。日本中の経済情報を握っている財務省の機嫌を損ねてしまえば、経済記者は「商売上がったり」だ。貰えるはずのスクープ情報も、もらえなくなる。そして、出世ができなくなる……。また、10%に上がったときの軽減税率の対象から、新聞を外されては困るという事情もある。

こうした背景を知った上で、今回の「税収減」の報道は受け止めるべきだろう。

税収減は今後も続く!?

今後、税収減の傾向はさらに続く可能性がある。

というのも、今回の税収は2016年度のものだったが、図2を見ると、2017年の消費はさらに落ち込んでいる。

消費税を上げたダメージは、年々じわじわ積み重なって、3年後くらいから本格化すると言われている。「消費が減る→企業の売り上げが減る→給料が減る→さらに消費が減る」という悪循環が、少しずつ進行していくからだ。

消費増税の本当の怖さは、直接消費を減らすこと以上に、その負のスパイラルの引き金を引いてしまうことだと言える。

本欄でも指摘してきたが、実際、1990年に消費税を導入した時も、1997年に消費税率を5%に上げた時も、景気が絶好調の時に増税したので、税収は一瞬だけ上がった。しかし、それから1~3年の間に徐々に景気が傾き、税収も落ち込み傾向に向かっていった(下図)。

今回も、税収の推移のグラフが、同じようなカーブを描く可能性が高い。

財務省資料を元に編集部作成

財務省資料を元に編集部作成

財務省資料を元に編集部作成

本当に、将来的に安定した税収を確保したければ、消費税率を5%に戻す必要がある。ましてや、10%に上げることなど言語道断だ。

今回の「税収減」の原因を探ることは、これからの日本経済の命運を左右する重要な問題だ。財務省は煙に巻かず、国民も煙に巻かれず、しっかり議論していく必要がある。

(馬場光太郎)

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