トランプ人気はポピュリズムなのか? EU離脱との比較で読み解く

トランプ人気はポピュリズムなのか? EU離脱との比較で読み解く

George Sheldon / Shutterstock.com

 

《本欄のポイント》

  • 米大統領選においてトランプ氏は「ポピュリスト」と批判されている
  • EU離脱は下層階級の声が拾われた珍しい事例
  • トランプ人気はポピュリズムなのではない。今のアメリカがエリート主義に陥っている

 

アメリカ大統領選も終盤に近づいてきました。

 

米主要メディアはドナルド・トランプ氏に否定的です。「トランプ候補の躍進はアメリカの民主主義の衰退を示す」(10月10日付フィナンシャル・タイムズ紙 ギデオン・ラックマン氏の記事"The declining prestige of US democracy")とする主張や、「今の政治はポピュリズムに陥っている」という論調が数多く見られます。果たして本当にそうなのでしょうか。

 

このことをイギリスのEU離脱と比べて見てみると、少し違った側面が見えてきます。

 

例えば離脱前の英国の主要紙は、「EUの離脱の可能性はほとんどない」と一様に論じていました。しかし国民投票の結果を見ると、離脱派が52パーセントを超え、離脱が決定されました。

 

当時、離脱派を率いていたのは、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長です。ジョンソン氏は、中産階級の中でも下層階級の「こんなイギリスはイギリスではない。自分たちの国のことはブリュッセルではなくて自分たちで決めたい」という声を代表していたと言われています。しかしボリス氏は中産階級の出身ではありません。イギリスの王室にもつながる家系の出身者です。エリートが国民の声に耳を傾けた一つの好例でした。

 

一方、アメリカの大統領選におけるトランプ氏の支持層は、下層中産階級の白人男性だと言われています。痛烈なトランプ批判で有名な映画監督マイケル・ムーア氏は、敢えてこのようにトランプ氏を評しています。

 

「トランプ候補だけがデトロイトのフォード・モーター社のマネージャーたちに対して、『お前たちが工場をメキシコに移したら、メキシコからの車に対して35パーセントの関税かけて誰も買わないようにしてやる』と啖呵を切った。これまでこんなことを言う大統領候補は誰もいなかった。これはBrexit State(離脱州)であるミシガン、ペンシルバニア、オハイオ、ウィスコンシンの人たちにとって心地よい響きがある」

 

ちなみに「離脱州」とは、マイケル・ムーア氏が英国離脱(Brexit)からつくった造語で、「いくつかの州が、今にもアメリカから離脱したがっている状況」を揶揄した表現です。

 

このムーア氏のコメントにも象徴されるように、アメリカでは、エスタブリッシュメント(支配階級のこと)の声は、マスコミ等を通して政治のなかで代表されてきた一方で、産業の空洞化で雇用を失うなどして痛手を被ってきた白人労働者たちの声なき声は、トランプ氏の登場によって初めて知られるようになったと言えます。

 

要するに、「トランプ氏がポピュリズムを煽っている」「民主主義を破壊している」という以前に、そもそもエスタブリッシュメントがエスタブリッシュメントの声しか代表してこなかったということが問題なのです。

 

つまり、現在のアメリカ政治は「人民の人民による人民のための政治」ではなく、一部のエリートのための政治となってしまっています。「民主主義を代表する国だ」という世界中への触れ込みとは裏腹に、現在のアメリカは、すでに民主制ではなく寡頭制となっているのです。

 

アメリカは建国当時「共和国」としてスタートしました。アメリカがモデルとした共和国ローマでは、国家とは、精神的にも物質的にも、国民全員の幸福を願うものだと理解されていました。そうであってこそ国民は国家を「我が祖国」と思えたのです。 

 

しかし、このトランプ支持者の多い州を、奇しくもムーア氏が「Brexit States(離脱州)」と呼んだように、「こんなアメリカは私たちが考えるアメリカではない」と考えるアメリカ国民が多数います。

 

かつて政治思想家のマキャベリは、共和国について「革命が起きるまで、改革が起きない」として、王政などと比べて、変革が遅いことを嘆きました。「革命」に匹敵することが起きなければ、「共和国」が本来の姿、つまり自由ですべての人の幸福を追求できるアメリカを取り戻すことはないでしょう。

 

トランプ氏は、10月18日にペンシルバニア州ゲティスバーグにて、大統領に就任当初の「100日計画」を発表しました。その中には不法入国者の抑制や、中間層の減税、今後10年間で2500万人の雇用創出とともに、ロビー活動を厳格に制限する決まりも設けています。トランプの政治集会におけるスローガンは「Drain the Swamp of Washington(ワシントンの問題を解決する)」であり、既得権益社会の撤廃です。

 

今、世界で起こっていることは、ポピュリズムの出現というよりも、民主政から寡頭制への堕落です。国民の声なき声を救いあげ、すべての国民の幸福を目指すことができるような真のエリートの出現が何よりも求められているのです。

(長華子)

 

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タグ: アメリカ  大統領選  トランプ  ポピュリズム  EU離脱  マキャベリ  民主政  寡頭制  

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