「アラブの春」の次はイスラム改革が必要だ
2013.09.22
8月、政府軍によると見られる攻撃を受けたシリア北部のラッカ。2年半にわたる内戦で、シリアの街々は廃墟と化している。写真:ロイター/アフロ
2013年11月号記事
「アラブの春」の次はイスラム改革が必要だ
中東民主化の長い道のり
「アラブの春」と呼ばれる反政府運動が中東を席巻し、民主化への期待が高まって2年半あまり経つ。だが、各地ではなお政変が続いている。イスラム教国が民主化を実現するには何が必要なのか、シリア、エジプトの情勢を中心に考える。
いまだ終わらぬ「アラブの春」
- 2010年12月
- チュニジア 警察に抗議した青年が焼身自殺し、全国にデモが拡大
- 2011年1月
- チュニジア ベン・アリ大統領が亡命
- エジプトなど 反政府デモが中東各国に波及。リビア、シリアでは内戦へ
- 2月
- エジプト ムバラク大統領が退陣
- 3月
- リビア 英仏米が内戦に軍事介入
- 8月
- リビア 反体制派が首都トリポリを制圧
- 10月
- リビア カダフィ大佐が殺害される
- チュニジア 初の議会選でイスラム政党が第1党に
- 11月
- リビア 移行政府が発足
- 2012年1月
- エジプト ムスリム同胞団主導の自由公正党が下院第一党に
- 6月
- エジプト ムスリム同胞団のモルシ氏が大統領選で勝利
- 8月
- シリア 米オバマ大統領が、「化学兵器使用は越えてはならない一線」とシリア政府に警告
- 2013年4月
- シリア 政府軍が化学兵器を使用したと、英仏が国連に報告
- 6月
- シリア アメリカが反体制派への軍事援助を表明
- 7月
- エジプト 反政府デモが拡大し、軍がモルシ大統領を追放
- 8月
- エジプト モルシ派のデモを軍が武力弾圧
- シリア 政府軍が化学兵器を使用
- シリア オバマ米大統領が軍事介入を表明
- 9月
- シリア ロシアの仲介で、シリア政府が化学兵器の廃棄を表明
2011年、チュニジアを皮切りに、反政府デモが中東全域に広がると、欧米メディアは「中東に民主化の波が来た」と、先を競って現地の動静を報じた。
ベルリンの壁の崩壊に続いて、ソ連の独裁体制が崩れた東欧と同様に、この地にも自由と民主主義が訪れるのではないかという期待感から、反政府運動はやがて「アラブの春」と名付けられることになる。「1989年の東欧革命以来、最も重要な政治的事件」と呼ぶ声もあった(注)。
実際にチュニジアや、エジプト、リビアでは、数十年にわたって国を治めてきた「独裁者」が次々と倒されていった。
道半ばの中東民主化
だが「アラブの春」は、本当に「春」をもたらしたのか。
シリアでは2年半も続く内戦が終わる気配がない。これまでに10万人以上が犠牲になった上、約2百万人もの難民が周辺諸国に押し寄せている。国内で家を失った避難民は、5百万人に達した。アメリカなどが軍事介入に踏み切れないまま、戦闘が今後も続く恐れがある。
30年にわたって独裁体制を敷いてきたムバラク大統領が倒れたエジプトでは7月、事実上のクーデターが起きた。民主的に選ばれた大統領を、民衆のデモの後押しを受けた軍が追放したのだ。同国は、デモ隊が大動員で政権を威嚇し、軍が味方に付けば政権交代が実現するという、投票によらない「街頭民主主義」に陥ってしまっている。
民主化がゴールなのだとすれば、「アラブの春」はまだ始まったばかりに過ぎない。中東のイスラム諸国が安定的な民主主義体制を打ち立て、人々が政治的な自由を享受するためには、イスラム教の改革にまで踏み込む必要がある。 まずは内戦が続くシリアの動向から見てみたい。
(注)2011年6月17日付のインターナショナル・ヘラルドトリビューン紙に掲載された、英ロイター通信グローバル・エディターの、クリスティア・フリーランド氏の寄稿。
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