台湾総統選・現地取材 日本とはケタ違い!? 凄まじい盛り上がりの背景にあるもの
2024.01.29
投票が翌日に迫った1月12日、台北の中心部から少し離れた新北市板橋駅に地下鉄で向かった。ここで民進党、そして国民党の最後の大規模集会が同時に行われるためだ。
我々が訪れた民進党の集会は球技場で行われていたが、20万人を超える支持者が結集していたため、本会場には既に入れない。仕方なく球場外に陣取ったが、それでもものスゴイ熱気だ。集会も終盤に差し掛かっているにもかかわらず、次から次へと人が集まり続けてくる。
【現地取材】20代の投票率が9割!?なぜ台湾の選挙は日本とケタ違いに盛り上がるのか?【Truth Z(トゥルースゼット)】
「頼さんは唯一、中国に対してはっきり台湾の立場を言える人だと思います。」
日本ではカメラを向けると、ほとんどが及び腰になって受けてくれない街頭インタビューだが、台湾では異なる。大抵の人が気軽に引き受けてくれ、そのインタビューを見守る人だかりが出来る。そして、彼らの中から「俺に(私に)聞かないのか」とアピールとしながら、声をかけてくる。映像の「撮れ高」としては有難い限りだ。
球技場内部の様子は全く分からないが有力候補者が登壇すると、アイドルが登場したかのような叫び声が響き渡る。「Team Taiwan」と記されたスタジャンや様々なグッズなど、緑で統一された集団たちの合唱を聞いていると、ここが政治集会などではなく、ライブイベントか、はたまたスポーツ観戦か、という錯覚に陥った。
「アラブの春」が起きた翌年の2012年、私がエジプト・カイロ留学中に遭遇した、タハリール広場での反政府デモの熱気も凄まじかった。しかし、「民主主義」という新たな衣を手にしたばかりのエジプトでは、「バカ騒ぎしたい」「暴れたい」という群衆が大半で、無秩序でかなり危うい印象は否めなかった。
それに対し、台湾の集会では老若男女問わず大盛り上がりでまるでフェスティバル、きわめて自由で平和的だ。一方で、誰に話を聞いても、それなりにしっかりとした答えが返ってくるし、民進党の集会では中国の覇権主義や国民党の親中姿勢には極めて辛辣だ。自分なりの考えや信条をもって、集会に参加していることが分かる。
台湾の「民主主義」のこの盛り上がりはいったいどこからくるのか。
「若い世代ほど政治に参加している」という日本では考えられない事実
まず、「投票率」をみると、日本と台湾のその差は如実に分かる。
もちろん、日本には総統選にあたるような、国家元首を国民が直接選ぶ仕組みはないので、単純な比較はできないが、投票率が比較的高い衆議院選挙と比べても、歴然とした開きがある。最近の投票結果をみても、2014、17、21年の衆院選がそれぞれ52~55%程度の投票率、国民の約半数の投票だったのに対して、台湾の総統選は今回の71.86%をはじめ、過去を振り返っても投票率はほぼ7割を超えている。
蔡英文総統が初当選した2016年は最も低調で66.3%だったが、それでも国民のほぼ3分の2が投票している計算になる。
しかも、台湾には期日前投票や在外投票の制度がなく、戸籍のあるところで当日しか投票できないというから驚きだ。
投票日が近付くと、ただでさえ人でごった返している台北駅構内には、キャリーケースを持つ帰省客が心なしかグッと増えたようにも見えたし、実際に「投票しに帰省するから早めにお店を閉める」という飲食店のオーナーもいた。更に、集会でのインタビュー中には、この投票のために米国のボストンからわざわざ戻ってきたという強者(つわもの)にも会うことが出来た。
中でも驚かされたのは、台湾の多くの若者たちが積極的に政治参加する姿だった。
日本だと「若者=政治に無関心」というイメージが正直ぬぐえない。だが、台湾では真逆なようだ。
振り返ってみても、2014年、中国へのサービス分野での市場開放を目指した「サービス貿易協定」を巡って、当時の国民党政権への抗議運動へと発展した「ひまわり運動」の主体は、まさに学生たちであった。また、とある推計では「20代の投票率は9割」と、日本の感覚からすると驚愕すべき数値すら出ている(ちなみに2021年の日本の衆議院選挙における20代の投票率は36.5%)。
確かに今回、台湾の選挙を肌で感じて、10~20代の若者たちが主体的に参加しやすい集会の雰囲気づくり、前述した通りのライブやフェスのような空気感が演出されているという面はあるだろうが、それよりもむしろ、その下の世代、小学生や幼稚園児くらいの多くの子供たちが、親と共に参加している姿が際立って印象的で、素直に感動した。
それも、「親に無理やり連れてこられている」という感じではなく、家族の中でもそのお祭り騒ぎをむしろ率先して楽しんでいるという光景を多数、目にした。
台湾在住歴の長い、ある日本人駐在員からも「子供の時から親が意識して政治に触れさせていくという教育スタンスは、日本よりはるかに強いのではないか」とも聞き、ここに盛り上がりの本質的なヒントが隠されているかもしれない、とも感じた。
多くの犠牲を出して民主化を勝ち取った歴史的背景
この聞きしに勝る台湾の選挙の凄まじい熱気、4年に1度の選挙に賭ける国民の情熱に触れてみて、日本人として純粋にこの根底にあるものを知りたくなった。
この点について、現地で取材させて頂いた台湾教授協会会長の陳俐甫氏に伺ってみると、台湾の選挙の歴史との関係性を指摘し、こう述べられた。
「今のように総統選や立法委員選も行われておらず、国民党一党支配で戒厳令が敷かれていた時代、『民主的で自由な国だ』と全世界にアピールするために、彼らは地方選挙を民主主義の象徴として利用していた。4年ごとに地方選挙を開催し、投票する機会を国民に与えることで一種のガス抜きをしていたが、当時の台湾人にとっては、自分の意見を自由に表現することができる、まさに貴重な数日間だった。こうしたカルチャーが台湾の今の選挙に大きな影響を与えているだろう」
そして、このように続けた。
「昔の台湾では選挙の不正は当たり前のことだった。今の民主主義と自由を勝ち取るために多くの先人たちが逮捕され、投獄され、殺されている。これが台湾の選挙が他の国々よりもはるかに情熱的な理由であり、先人たちの血と汗の歴史こそが、台湾で真の民主主義を達成したのだ」
例えば、1992年の李登輝政権の調査によれば、1947年に起きた「二・二八事件」の犠牲者は1万8000~2万8000人とも推定されている。また、その後の「戒厳令」下の台湾でも、民主化を目指した人々が粛清された数は3000~4000人とも言われている。
そうした先人たちの犠牲の下に、ようやく勝ち取った「自由」と「民主」であるという意識が、台湾人の精神にしっかりと根付いているのは間違いなさそうだ。
実際、人々の考えや信念が「集合想念」としてぶつかり合っているというのが台湾の選挙を体感した印象だ。よく選挙を現代の戦争に例えることもあるが、日本のそれに比べれば、はるかにその言葉に近い。
集会場でたなびく頼清徳新総統の旗を見つめながら、「三国志」や「項羽と劉邦」の時代が現代に蘇ったかのような気分にもさせられた。
自分たちの手でリーダーを選ぶという大統領制と議院内閣制の違い
また、制度上の決定的な日本との違いとしては、何といっても、自分たちのリーダーを直接自分たちの手で選ぶことが出来る「大統領制」が導入されている点だろう(厳密にいえば、台湾はフランス型の「大統領制+議院内閣制」の「半大統領制」にあたる)。
この「大統領制」と「議院内閣制」の違いとは何なのか、簡単に考えてみたい。
議院内閣制とは、国民に選出された国会議員たちが、行政の長として相応しい人物を彼らの中から選ぶというプロセスで、要するに「立法権としての国会」と「行政権としての内閣」が大きく重なり合い、混然一体としている。それに対して、大統領制では直接国民たちの手で選ばれるという点から、「国会」から「行政」が完全に独立している形となっている。
「議院内閣制」では、まず選挙で勝たなくては自分たちの党から総理大臣を選出することはできず、どうしても「選挙至上主義」となってしまう。故に「行政の長」としての手腕や経営能力といったものよりも「選挙の顔として使えるか」といった別の要素が総理大臣に求められてしまう、というのは日本を見れば理解が早い。
また、国会議員同士や派閥の間の勢力争いによって足の引っ張り合いが起こりやすく、本来、国の宰相として最優先で取り組まなくてはならない国家運営において、多々非効率が生じることも否めない。
この点、「立法権」と「行政権」が切り離された「大統領制」においては、こうした煩わしさからは少なからず解放され、強いリーダーシップを発揮することが可能となる。
まさに今、自民党派閥の政治資金パーティーを巡る問題が日本を騒がせているが、こうした問題が起こる一つの要因も、「議院内閣制」において、国会議員の中から「総理大臣を輩出する」という仕組み自体にあるのではないだろうか。
幸福実現党の大川隆法党総裁は2009年、立党の段階で『新・日本国憲法試案』を発表、第三条には、「行政は、国民投票による大統領制により執行される。大統領の選出法及び任期は、法律によってこれを定める。」と記すように、既に「大統領制」の導入を提唱していた。
そして、『新・日本国憲法試案』では、「議院内閣制」に代表される間接民主制について、こう指摘している。
「今の時代においては、直接投票で行政の長を選ぶほうが、権力の基盤はより強固なものになると思いますし、民主主義の基本的な考え方からいっても、そうあるべきだと思うのです。そうしないと、国民が本当に望んでいる人が選ばれない状況が生まれてくるわけです。
例えば、『国会で多数派を形成できる者が行政の長になれる』ということであれば、派閥のボス的な人、金権政治家などが非常に生まれやすい状況になると思われますし、そうした、永田町で人気や権力のある人、権謀術数に長けた人が行政の長になることもあると言えます。
ただ、国民の直接投票で行政の長を選ぶとなると、『タレントのような人が、総理大臣、あるいは大統領になるのではないか』というおそれも一部あるかとは思います。しかし、国民はそれほど愚かではないと私は信じています」
人口の多寡は国力につながるが、台湾の人々が示す選挙への情熱を垣間見て、「政治参加する人がどれだけいるのか」ということも、ある種の国力を示すものだと痛烈に実感させられた。
今の日本政治は誰がどう見ても、深い機能不全に陥っているといえる。国民から信頼を挽回し、日本政治の「失われた30年」を取り戻すためには、国家の宰相が強いリーダーシップを発揮することが出来る「大統領制」こそが必要な一手であると確信し、日本は本気で検討すべき時期にきているのではないではないだろうか。
(幸福実現党広報本部 城取良太)
【関連書籍】
『新・日本国憲法 試案』
大川隆法著 幸福の科学出版
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