ウクライナ一辺倒のマスコミの論調が変わり始めた(後編) ハンチントン博士はなぜウクライナとロシアの融和を促していたのか

2022.06.26

《本記事のポイント》

  • ロシア正教の聖地としてのキエフ
  • 全ての野党を非合法化するウクライナ
  • 北の十字軍を彷彿とさせるNATOの東方拡大

前回は米識者のコメントを中心に、ウクライナに一方的な肩入れをする論調に異議が出始めたことを紹介した。

今回紹介するのは、ウクライナ問題について今回のような紛争を予期していた、サミュエル・ハンチントン博士の指摘である。

博士は1993年に発刊した『文明の衝突』において、ウクライナとロシアの間の紛争を防ぐ条件として、両国でロシア人とウクライナ人が混在していること、ウクライナでロシア正教会を信じている人が多いこと、文化的、歴史的なつながりが密接であることを挙げ、ロシアとウクライナの協力を促していた。しかも、それを破壊することになる「欧米によるウクライナへの核の供与」にも否定的立場を表明していた。

ハンチントン博士は、両国のつながりはもともと深いと指摘する。その起源はキエフ・ルーシ(ロシアやウクライナの起源とされる国家)がキリスト教の一派であるロシア正教を受け入れた988年にまで遡る。

ロシア正教の聖地としてのキエフ

約1000年以上の長きにわたって、多民族国家を包摂する共通の歴史的基礎となったのがロシア正教である。

大川隆法・幸福の科学総裁が指摘するように「ウクライナの首都キエフはロシア正教の聖地で、ロシア的には、エルサレム的存在」であった(関連書籍『ウクライナ問題を語る世界の7人のリーダー』参照)。

文明のアイデンティティは他文明との競争の中で磨かれ発展していく面がある。とりわけカトリックから攻撃を受け、それを撃退した歴史から、ロシア正教文化圏とも言うべきものが発展していった面は無視できない。

13世紀前半、ローマ教皇ホノリウス3世は、「ルーシの民はローマ教皇からの分離主義者だ」と主張。ロシア正教への帰依は「傲慢」「分派行為」と決めつけ、十字軍が派遣された。

これが、かの「キリスト教徒によるキリスト教徒に対する十字軍」となった「北の十字軍」である。教皇の名のもとにドイツ騎士団などが中心となり、正教根絶のために残虐の限りを尽くしたことで知られている。同時期に東からはモンゴル人が襲来し、ルーシにとっては国難の日々となった。

全ての野党を非合法化するウクライナ

ロシア正教の宗教的紐帯が長らくウクライナ、ロシア、ベラルーシといった地域を統合してきた。

2009年にロシア正教のトップ、総主教になったキリルがウクライナを訪れ、「ウクライナの首都キエフこそロシアのコンスタンティノープル、そしてエルサレムである」と指摘。ウクライナとロシアとが兄弟国家とされる根拠を示した。

ウクライナの西部は、カトリックと正教が半々のユニエイトと呼ばれるウクライナ東方教会の信徒が存在していると言われる一方、ウクライナで最も多いのはロシア正教会の信徒であるため、ロシアとウクライナとの地域の文化的・歴史的一体性は決して否定できるものではない。

しかしゼレンスキー大統領は支持率が下がると、文化的なつながりを意図的に忘却し、ロシア語母語話者にその使用を禁止するという暴挙に出た。それだけではなく、トルコ製ドローンなどで東部2州を空爆してきた。

しかもウクライナは3月の時点で全ての野党を非合法化。当然のことながら親露政党は活動を認められていない。

民主国家を統治する政治家は、あらゆる文化的背景や歴史を背負った民族や階層、政党の声を包摂して代表する義務がある。ひとたび多数政党をとれば何をしてもよいというのは、全体主義者のなすことであるとの批判を免れないだろう。

ゼレンスキー氏は、「自由」や「民主主義」を大義として掲げ、西欧諸国の結集を呼びかけてはいるものの、そうした価値の擁護を訴えるだけの理解も実態も備えてはいないのである。

ハンチントン博士はウクライナを融和的にまとめられなければ、将来、チェコスロバキアやユーゴスラビアのように、国が分裂することもあり得ると予見していた。これは、「東部2州の割譲をしてでも、停戦交渉をすべきである」と提案した米元国務長官のヘンリー・キッシンジャー博士の提案にも通じるものである。

「北の十字軍」を彷彿とさせるNATOの東方拡大

ハンチントン博士は、西欧のリベラルな民主主義を普遍的なものとするのは西欧の考え方であって、他の文明圏から見ればそれは帝国主義に映る、と指摘する。

それもそのはずだ。行き過ぎた平等主義や個人主義、LGBTQの問題、神への信仰や人間の精神性が失われた西欧文明に普遍主義があると認めるのは困難を伴う。

冷戦崩壊後、ロシアは欧米と接触する中で、外交の主流に欧米との協調路線を据えることができなかったのは、欧米との間に埋められない距離と異質さを感じたからである。

プーチン大統領は2020年7月の憲法改正で、大統領経験者の立候補制限の緩和を盛り込むとともに、前文に神の概念を導入したり、「結婚は男女の結び付き」とする同性婚を事実上禁止したりする項目も追加した。

このような憲法改正は時代錯誤であると批判されることが多いが、「文明が西洋化すれば進歩する」という歴史観こそ危ういのである。

現代のNATOの東方拡大は、過去の「北の十字軍」を彷彿とさせる。

「北の十字軍」と戦った当時と同様、異教徒からの侵攻に対し、ロシア正教の信仰の純粋性を守る防衛戦を行っているのがプーチン氏のように見えないか。

大川総裁は、アメリカの普遍主義の限界について触れ、こう述べている。

『アメリカ的な価値観が広がれば、世界は幸福になる』と考えていたわけですが、それがあまりうまくいかなくなってきたのです。本当は、それぞれの国の良さを認め、それを生かしていかなければ駄目なのですが、ほかの国から見ると、アメリカ人には、けっこう"自己中"なところがあるのです」(『映画「神秘の法」が明かす近未来のシナリオ』)

バイデン米政権がアメリカ的普遍主義を振り回すほど、世界は分断されていく。ウクライナ紛争を契機に、インフレや食料・エネルギー不足に陥り、ウクライナ支援の永続化は現実的ではないとの論調も出始めている。国の財政や、ロシアとの核戦争を想定してまで対立すべきなのかという問題を、議論の遡上に載せるべき時にきている。

【関連書籍】

『ウクライナ問題を語る世界の7人のリーダー』

幸福の科学出版 大川隆法著

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タグ: NATO  マスコミ  十字軍  エネルギー不足  バイデン政権  サミュエル・ハンチントン  ロシア正教  ウクライナ  ロシア 

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