ウクライナ一辺倒のマスコミの論調が変わり始めた(前編)
2022.06.19
フィンランドとロシアの国境線は1300キロで、札幌―福岡間と同じ長さである。画像はFox newsより。
《本記事のポイント》
- 米識者がバイデン政権のウクライナへの肩入れを批判
- 米経済学者:フィンランドのNATO加盟には正当性がない
- 世論を煽るのは意見形成の機会を奪う行為
「プーチン大統領は戦争という悪を犯している。ヒットラーのような侵略者だ」
西側諸国ではそうした感情的な論調が依然として支配的ではあるが、数多くの異論も登場するようになってきている。
米識者がバイデン政権のウクライナへの肩入れを批判
以下、3人の識者の例を挙げたい。
1人目は、米ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであるロス・ドゥザット氏だ。
同氏は、アメリカが現在、年間で、アフガニスタン援助支援の額をはるかに上回る規模の支援をウクライナに対して約束している。その額は欧州連合(EU)からの支援の約3倍にも上る。苦境に立つ覇権国アメリカは、ウクライナ政府支援の負担を、欧州の同盟国に担ってもらうべきだと主張した(6月4日付電子版)。
次にウォール・ストリート・ジャーナル紙コラムニストのラッセル・ミード氏は5月25日、「ロシアとウクライナについてのキッシンジャー vs. ソロス」と題するコラムで、こう疑問を投げかけた。
ウクライナは、西側諸国から経済的・軍事的に莫大な支援がなければ、長期的に戦争を続けることはできない。もしウクライナが生き残りのための戦争に、持てるお金の全てを投じたら、その通貨はどうなるか。米議会は400億ドル(約5兆円)の支援を何度可決する用意があるのか。多くのEU諸国がインフレと燃料価格の高騰に苦しんでいるときに、EUはどれだけの経済援助を行う準備があるのだろうか。もし戦争が世界中で食糧不足や飢餓を引き起こし、エジプトなどの国々に政情不安が広がったら、欧米はウクライナへの援助を続けながら、世界的な対応を調整することができるのだろうか。
米経済学者:フィンランドのNATO加盟には正当性はない
3人目は、フォックス・ニュースに13日に寄稿された経済学者ラッセル・ボート氏のコラムだ。同氏は「スウェーデンとフィンランドのNATOへの加盟はアメリカの安全保障を高めることにはならない」と題した記事で次のように述べている。
アメリカでは民主党と共和党が合意を見る案件は滅多にない状態になっているが、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟だけは、超党派での合意が見られる。
北欧の豊かな福祉国家の2カ国は、中立を保つことで70年以上平和を享受してきた。この2カ国をNATOに加えてアメリカが防衛義務を負うことは国益とはならない。両国を加盟させれば、年間の拠出費15億ドル(約2000億円)に加えて80億ドル(約1兆円)の追加費用がかかる。
両国の軍事力は大きくない上に、NATOの同盟国が満たすことを要請されている「国内総生産(GDP)2%の防衛費」を負担できない。
その上、両国を加盟させれば、ロシアから核による反撃に遭う可能性を高めるという危険性がある。フィンランドとロシアが接する国境は非常に長く、国境付近で紛争が起きれば、核の傘の供与は核戦争へと転じるリスクがあるのだ。アメリカよりも、両国が加盟している北欧防衛協力などの枠組みで対処すべきだ。
記録的なインフレ率と、3000兆ドルを超える政府債務の問題を抱えるアメリカが、豊かな社会福祉国家に米国民の税金と地上兵を投じることを正当化するのは難しい。
とりわけ両国が中立国で平和を享受してきたことや、両国がアメリカの安全保障を高めるわけではないことに着目すれば、なおさらである。
この点についての活発な議論をせず、異論を唱える者を中傷するやり方は、過度にアメリカの兵線を延ばし、核武装したロシアと対決するリスクを高めるだけである。
世論を煽るのは意見形成の機会を奪う行為
注目すべきはフォックス・ニュースやウォール・ストリート・ジャーナル紙など通常保守的とされるメディアに、こうした議論が掲載され始めたことだろう。
もとより意見形成の機会を認められるのが民主主義である。政治哲学者のハンナ・アレントは、意見を形成する機会が存在しないところでは、「気分があるだけで、意見は存在しない」と述べている。
「弱い者いじめ」の構図をつくりだしてマスコミが一方的な世論形成を行うことは、民主主義にとって必要な意見を形成する機会を奪うのである。
本誌7月号で、上野俊彦元上智大学教授が語っているように、ウクライナ政府はウクライナ語を公用語としてロシア語母語話者に強要したり、空爆により東部2州の独立派を制圧する作戦を実行するなどしたりしてきた(関連記事参照)。
それに対する介入は、邦人保護の理論や、保護する責任の理論(*)からも理解することが可能である。(後編に続く)
(*)自国民の保護という国家の基本的な義務を果たす能力のない、あるいは果たす意志のない国家に対し、国際社会全体が当該国家の保護を受けるはずの人々を軍事的に介入し「保護する責任」を負うという理論。
【関連書籍】
『ウクライナ問題を語る世界の7人のリーダー』
幸福の科学出版 大川隆法著
【関連記事】
2022年7月号 マスコミ民主主義が世界を滅ぼす - Part 1 西側諸国の見え見えのプロパガンダ 「ロシアの虐殺と侵略」のウソ
https://the-liberty.com/article/19550/
2022年7月号 ウクライナ戦争で日本の矛盾が露呈 露中同盟に追いやっていいのか - 上野 俊彦氏 インタビュー
https://the-liberty.com/article/19544/
2022年7月号 日本は今こそ、停戦の仲介をすべきである - ニュースのミカタ 1
https://the-liberty.com/article/19554/
2022年6月17日付本欄 仏独伊ら4カ国首脳がキエフを訪問 停戦を求める国が揃って訪問も、実現には時間がかかる
https://the-liberty.com/article/19618/
2022年6月3日付本欄 「ウクライナ戦争の責任の多くはアメリカにある」とニューヨーク・タイムズが批判 チャーチルの物真似はウクライナを破壊すると警告を発する
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