バイデン大統領のアフガン降伏 中国は戦略的な勝利者となり得るのか? (後編)【HSU河田成治氏インタビュー】

2021.09.05

出所:FDD Long War Journal

《本記事のポイント》

  • タリバンには表と裏がある!?
  • インド包囲網は完成寸前か
  • ナポレオンやヒトラー、旧帝国陸軍と同じ失敗を犯す!?

「帝国の墓場」と言われるアフガニスタンを味方へと転じ、勢力拡張を目指す中国。中国はタリバン政権と関係を深め、インド包囲網の構築を急ぐが、その目論見は実現可能なのか。

前編に続きアフガン情勢とその未来について、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)で安全保障学や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーに聞いた。

(聞き手 長華子)

タリバンには表と裏がある!?

元航空自衛官

河田 成治

プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

──タリバンによるアフガニスタン新政権はどういったものになると予想されますか。

河田:タリバンの幹部ハシミ氏は、「新政権のシステムはイスラム法に基づくことが明らかで、そこに民主主義の制度は全くないだろう」と述べています。

8月17日の記者会見では、イスラム法の枠内で女性の権利、表現の自由は尊重するとしているものの、すでにアフガニスタン領内では、強制結婚や処刑、アメリカへの協力者の洗い出しと逮捕・処罰、空港での国外脱出希望者への暴力、また、食事がまずいと言って、女性に火をつけて殺害するなどの事例が報告されていますし、多くの女学校が閉鎖され、女性は自宅に避難している状況です。そもそもイスラム法は、女性の人権を極めて低く見ていますので、尊重の意味は不明です。

また記者会見では「アフガニスタン領土が他国攻撃に利用されないことを保証する」とも述べ、アフガニスタンが「国際テロの巣窟とならない」と宣言しています。同記者会見では「国内・国際社会に対し、麻薬を生産しないことを保証する」とも述べています。しかしアフガニスタンは世界有数のケシの栽培地域で、世界の違法なアヘン剤輸出の約80%を占めています。これが同国の重要な資金源であることを考えると、簡単にアヘンの生産を諦められるのか、見通せません。

イスラムの大義を忘れたか

タリバンが生まれる前の1978年、アフガニスタンにソ連の支援を受けた唯物論共産党政権が成立すると、世界のイスラム教徒は激怒。世界各地からムジャヒディーン(イスラムの聖戦士)が馳せ参じました。彼らは、パキスタンを拠点にして、アフガニスタンに出撃し、アフガニスタンのムジャヒディーンと共に戦い、20世紀の超大国ソ連を敗退させました。

その後、「真のイスラム国家をつくる」という一念で神学生(タリバン)が結集。そして、発足間近の新政権はイスラム法(シャリーア)に基づく国家を建設すると宣言しています。

しかし同じく唯物論無神論の中国との関係ではダブルスタンダードです。中国から支援を受けられるなら「ウイグルの解放」は求めない構えです。これでは敬虔なムジャヒディーンが浮かばれないでしょう。

全体主義的な統治に向かう

一部の識者からは、タリバン政権は国際的孤立を避け、欧米からの経済援助を受けるために、女性や少数民族の尊重など人権に配慮するだろうという楽観的な予測も聞かれます。

しかしそれを阻むのがイスラム法です。そもそもスンニ派は、律法主義・形式主義が強く、個々人の内面の救済にはこだわりがありません。またイスラム法が国家を規定すると同時に、社会における個人の振る舞いや戒律まで定めているため、自由や人権が軽視される傾向にあります。イスラム法による全体主義的な傾向の強い国家が出現しやすい土壌があると言えるのです。

──気になるのは、パキスタンとの関係です。

河: タリバンとパキスタンとは歴史的に緊密な関係を築いてきました。

1980年代のソ連のアフガン侵攻の際、多くのアフガン難民がパキスタンに逃げ込んだのですが、その中に将来のタリバン要員もいました。タリバンは、パキスタンのイスラム神学校で教育を受けている者も多いです。タリバンがアフガンの南側の国境を超えた場所に避難先を持っていたからこそ、彼らが生きながらえ、最終的に軍事的成功を収めることができたと言えます。

現在、パキスタンは、タリバン内で最強硬派と言われる「ハッカーニ・ネットワーク」に対してすら、聖域を提供しています。日本はパキスタンに対する制裁も考慮に入れるべきです。

タリバン支援の中心的な役割を担ってきたのがパキスタンの軍情報機関ISIです。

パキスタンは、南北に細長い領土です。ISIは敵対するインドへの対抗上、アフガニスタンを味方に付けることで、インドから万一侵攻を受けても後方に位置するアフガニスタンの支援を受けられるという「戦略的縦深性」を得ようと考えてきました。今回のタリバン政権復活で、パキスタンは勝者となりました。

蜜月が深まるパキスタンと中国

このパキスタンと密接な関係にあるのが中国です。

中国は、中国パキスタン経済回廊(CPEC)を一帯一路の重要プロジェクトと位置づけています。

これは2015年からスタートしたウイグルとグワダル港を結ぶ2700キロの経済回廊で、交通インフラなど合計94のプロジェクトから構成されています。総投資額は620億ドルです。

中国にとっては、中東、アフリカへ抜けるルートとして、グワダル港およびCPECを戦略的にきわめて重要視していますが、現在でもプロジェクト全体の3分の1未満しか完成していません。ただし2020年の投資額は、前年の大幅減の反動もあり、8億4400万ドルと6.5倍にも増加させたことからも、中国は依然としてCPECを重要視しており、早期の完成を目指していると見るべきでしょう。

危惧すべきは、パキスタンの大国化です。パキスタンの人口は2019年時点で、2億1656万人で世界第5位となっています。同国は人口急増国であり、世界銀行の予測では2050年には米国を抜き、世界3位の3億3801万人にまで増加すると見積もられています。

中国がたとえ崩壊したとしても、次の悪なるものは潜在的に植え付けられていると見るべきです。

インド包囲網は完成寸前か

──こうしてみてくると、今回のアフガンからの米軍撤退で一番危機的状況に置かれるのはインドのように見えます。

河: そうですね。下の地図を見て下さい。

インドを囲い込むように、中国やその協力関係にある国の力が増しています。西側は、インドの宿敵パキスタンとアフガニスタンがつながりました。その上、アフガニスタンとイランの関係も深まりそうです。教義上は、アフガニスタンはスンニ派が主力であり、イランはシーア派であるため、協力関係は深まらないとの見方もありますが、タリバンはシーア派に一定の理解を示し、経済交流も再開しています。中国の一帯一路関係国として連結していくことも考えられます。

東側はバングラデシュを挟んでミャンマーが親中軍事政権を樹立しています。

この流れが同じく軍事政権であるタイ、また親中的なラオス、カンボジアに浸透・強化されていく恐れがあります。特に3つのASEAN経済回廊(南北経済回廊、東西経済回廊、南部経済回廊)によって中国、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムが経済的に一体化しつつあることは、この地域の将来的な中国の影響の更なる増大が予想されます。

またインドの北側ではチベットのラサにつながる鉄道網の建設が進んでいます。すでに運行している青蔵鉄道に加えて、四川省の成都からラサへ延びる川蔵鉄道が建設中です。

鉄道輸送はネパール、ブータンの攻略に必要な兵員や物資の大量輸送を容易にし、その後のインドとの対決に備える中国の戦略的な交通網整備となるでしょう。

ナポレオンやヒトラー、旧帝国陸軍と同じ失敗を犯す!?

──このほど収録された大川隆法・幸福の科学総裁による「ヤイドロンの霊言『世界の崩壊をくい止めるには』」で、宇宙存在のヤイドロンは、中国は世界制覇の拡張欲があるが、「兵線が伸びきったところで中国経済の崩壊を起こす」という方法を一つ考えていると語りました。

河: 確かに、中国の一帯一路などの拡張路線を見ると、中国が戦略的成功を収めているように見えます。

そこで重要になってくるのは、中国の拡張を逆手に取る戦略です。参考になるのは、補給線が延びきって敗北したナポレオンやヒトラー、日本帝国陸海軍の失敗でしょう。

ナポレオンもヒトラーも、ロシア(ソ連)の奥深くまで誘い込まれ、兵線が延びきったところを、冬将軍の到来を待って逆襲を欠けたロシア(ソ連)軍に手痛い敗北を喫しました。

第二次世界大戦における日本軍の敗因も、拡大を続ける中で兵站が追いつかなかった面にありました。

中国に従うように見えるアフガニスタンもイランもその背景にあるのは、中国の経済的な援助であり、イデオロギー的に一致しているとは必ず言えないところがあります。「札束で頬をはたく」外交を行っているのが中国ですから、「金の切れ目が縁の切れ目」になるでしょう。

中国が抱える国家と企業の債務の合計は、1京円は下らないとささやかれていますし、インフレの加速や、豪雨や家畜の病原菌などによる食料危機、自然災害による情勢不安など、経済的に不安も抱えています。そうした中で更なる国外投資や支援は、まさしく「伸びきった兵線」の様相を呈してくるはずです。

このときこそ香港の民主化やウイグル人権弾圧などに対する、自由主義諸国からの金融制裁、直接投資の制限等、金融・経済面での対中制裁が有効となります。戦略的には中国の魔の触手が伸び切ったところを狙うべきです。

あとはそれを実行する勇気と決断力を西側が持てるかどうかです。肉を切らせて骨を断つ気概がなければ、歴史上最悪の「悪の帝国・中国」をレジームチェンジさせるチャンスを逃してしまいます。

HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回のアフガニスタン情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。

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タグ: 中国  河田成治  アフガニスタン  全体主義  イスラム  タリバン  帝国陸軍  バイデン大統領  HSU  インド 

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