どうなる米露関係? 日本は米露の"かすがい"にならなければ、将来日本は二正面作戦を強いられる
2021.04.25
《本記事のポイント》
- NATO加盟を希望するウクライナ大統領の外交方針が火種
- 寄せ集めの国であるウクライナで、ロシア語を母語とする少数派が弾圧されている
- 日本は米露のかすがいとなり、ウクライナに「ミンスク合意」を守らせるべき
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は22日、ウクライナ東部との国境地帯や同国南部のクリミア半島に集結させていた軍部隊を、5月1日までに通常の駐屯地に撤収するように命じた。ショイグ氏は、軍は「演習目的」で送っていたため、その課題が完全に達成されたことを撤収理由として挙げている。
増強された軍部隊の規模は、欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表によると、19日までに10万人規模に達していたという。ロシア陸軍全体の約25%が集結していたことになる。2014年のクリミア併合やウクライナ東部紛争以来の状況だとされている。
「我々は国際社会のすべてのメンバーと良好な関係を維持したい」。そうプーチン大統領は21日の年次教書演説で語ったが、その意図を具体化したと見ることもできる。
これを受けて軍事的緊張は緩和に向かうこともあるかもしれない。だが、この「善意を弱さと解釈すべきではない」として、プーチン氏は同演説で以下のように釘を刺している。
「誰かがロシアの善意を弱さだと解釈し、自ら(関係を保つ)橋を燃やそうとした場合、ロシアの返答が非対称的で苛烈なものだと知ることになる。誰もが『一線』を超えないことを望む」
"火種"は決してなくなったわけではないのだ。欧米がプーチンの言う「一線」を超えた場合、今後も軍事的緊張が高まる可能性は十分あり得る。
欧米メディアは、プーチン氏は「ウクライナ支配を諦めていない」「ウクライナ奪還で求心力を回復しようとしている」といったロシアが侵略意志を持つとの見方が支配的。日本のメディアもその見解を援用する。しかし、本当にそうなのか。
2014年のクリミア併合時も、欧米メディアの偏向報道が著しかったが、今回もロシアの真意を読み違えていることも考えられる。
NATO加盟を希望するウクライナ大統領の外交方針が火種
"火種"を再び大きくしないため、ウクライナを押えようとするロシアの真意を偏見なく理解する必要がある。
事の発端は、2019年4月にウクライナの大統領に就任したゼレンスキー大統領が、外交方針として北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)への加盟を掲げたことだ。NATOがウクライナにまで拡大すれば、首都モスクワにとっての脅威が高まる。たとえて言うなら、韓国が北朝鮮に併合され、防衛ラインが対馬海峡まで南下した場合に日本人が感じる恐怖感と同等のものをロシアに与えることになるといっていいだろう。
そもそもアメリカはNATOを拡大しないというロシアとの約束を反故にし、NATOを拡大してきた。そのこと自体がロシアにとってルール違反と映った。
現在ウクライナでは、親ロシア派勢力が弾圧され、親ロシア派のテレビチャンネルの放送も停止されている。ウクライナ軍も今年4月、黒海での艦隊演習を開始する予定で、NATO軍はこれに呼応し、5月に十数カ国連合の約3万人超の部隊で、ウクライナ国境、黒海地域、等で、「ディフエンダー・ヨーロッパ2021」を実施予定だ。ウクライナはNATOとの関係を強化し、ウクライナ領内でNATO諸国と少なくとも7回の合同演習もある。
「ミンスク合意」を履行しないウクライナはロシアから見ると約束違反
2014年のクリミア併合後、ロシア、ウクライナ、ドイツ、フランスの4カ国協議を通じてクリミア問題の平和的な着地を目指す「ミンスク議定書」および「ミンスク覚書」が取り交わされた。その後2015年2月に和平協定である「ミンスク協定遂行措置」が承認された。これが一般に「ミンスク合意」と呼ばれているものだ。
この合意は13項目からなり、3つの段階が想定されている。第一段階では、停戦、武器の撤収などと共に、ドネツィク州とルハーンシク州における地方自治に向けた議論をスタートするとされている。最終の第三段階では、この二つの州の特別地位を認める法律の採択が盛り込まれており、それも視野に入れた第一段階であった。
しかしウクライナ政府はミンスク合意後に、「ドネツィク・ルハーンシクの特別地位(自治)についての交渉を進めない」として、第一段階の合意の一部を拒否している。
最近では、「ミンスク合意」そのものの変更さえ要求するようになった。ウクライナ側の不履行、そして親ロシア勢力の弾圧に対して、プーチンが業を煮やしているというのが真実の姿である。
寄せ集めの国であるウクライナで、ロシア語を母語とする少数派が弾圧されている
「ドネツィク州とルハーンシク州の自治」がなぜ求められているのか。以下の「ウクライナ語を母語とする住民の比率」を示す図を見ていただきたい。
画像: Alex Tora, Data from Ukranian cencus 2001
紛争地となっているドネツィク州とルハーンシク州では、それぞれウクライナ語を母語とする人口比は、24.1%と30%と約2割から3割しかおらず、多数派の母語はロシア語である。クリミアにいたっては、10人中9人がロシア語を母語とする。
日本は世界の中で例外的に、領域的な「主権国家」と民族的起源や言語、歴史を共有すると信じる「ネーション」とが一致しているため、この問題を理解するのが非常に難しい。
だが政治哲学者のハンナ・アレントが考察したように、この二つの間にズレが生じた場合に悲劇が起きやすい。
「人々が共同に参与する世界」が育っていない時、ある民族が他民族を圧迫することで、要らぬ民族紛争のるつぼとなってしまうからである。中国がチベット族やウイグル族を弾圧していることを想起すると分かりやすい。程度こそ異なるが、ウクライナの状況もこれに近いと言える。
ドネツィク州やルハーンシク州の人々にとって、ウクライナ語を公用語として強制されることは、香港市民に広東語ではなく、北京語を押し付けるのと何ら変わりはない。その意味で、クリミアへの介入同様、ロシアの側で邦人保護の理論が成立するのである。
こうしたロシア側の言い分を理解しなければ、欧米は大きな問題を犯しかねない。
バイデン氏のロシア敵視政策で米露関係悪化
今年1月に誕生したバイデン政権は、ロシアこそ敵だと見なしている。
だがそんなバイデン氏は2月4日の外交演説で、ロシアを公然と批判し「ロシアの攻撃的な行動の前にアメリカが屈服する時代は終わった」と述べ、対ロシア強硬方針を明確にした。
トランプ氏をロシア疑惑で追及してきた経緯や、ハンター・バイデン氏の中国疑惑から目を逸らす思惑もあって、バイデン政権は対露関係で強硬に出ざるを得ないのだ。
バイデン政権はすでに、(1)2020年米大統領選挙への干渉、(2)反体制派指導者アレクセイ・ナヴァリヌィ氏の暗殺未遂、(3)米国へのサイバー攻撃などの敵対行為を行った、という罪状を挙げロシアに2度の制裁を発動している。
その中にもバイデン政権の「読み違い」が多分に含まれている。
(2)に関してはロシア政府がナヴァリヌィ氏毒殺未遂事件に関与したと断定し、ロシア政府関係者7人と十数の政府系団体に対する制裁措置を発表している。
だが反政権の街頭活動は、中国の支援を受けている可能性もある。大川隆法・幸福の科学総裁が3月に行った霊言で、習近平・中国国家主席の守護霊は、世界皇帝になるという野望の実現のためには「プーチン失脚が次の目標」だと語り、ブラック・ライブズ・マター(BLM)と同じ手口で、同国を絡めとる狙いがあることを暴露した(『習近平思考の今』所収)。
加えてバイデン氏は3月17日のABCテレビのインタビューで、プーチン大統領を『人殺し』呼ばわりするなど、名誉を重んじる同氏のプライドを傷つけている。プライドを尊重し、表立ってプーチン氏を批判しなかったトランプ氏とは対照的である。
西側はウクライナにミンスク合意を守らせるべき
またロシアが今後、侵略的行為を加速させるとの読みにも注意が要る。
欧米メディアでもロシアがドネツィク州とルハーンシク州に軍隊を正式に投入し、クリミアをモデルにして、この地域を併合するのみならず、オデッサやクリミア半島を含む地域を「ノボロシア」としてロシア領にしてしまうという「プーチン氏強硬論」がよく見られる。
だがロシアは侵略国家とみなされるようなことまでするのだろうか。それにはプーチン氏が年次教書演説で報復を匂わせたところの「一線」とは何かを知らねばならない。これを理解する助けになるのは米シンクタンクAEIのレオン・アロン氏とカーネギー財団のアレクサンドル・バウノフ氏らがシンクタンクのサイトで発表した分析である。
アノン氏は、ロシアの軍事的威圧の原因をこう考察する。
「西側に接近するウクライナの姿勢は、ロシアにとって受け入れられない事態であり、そのような裏切りへの警告は、ロシアの隣国に対する不変の政策である。一方、コロナパンデミックを受けたロシア経済の未来は暗く、ナヴァリヌィ氏問題による抗議は、プーチン政権20年で最大の運動になっており支持率が低下しているため、プーチン氏は支持と政権の正当性を高めるための行動を必要としている。一方で、バイデン氏はプーチン氏を『人殺し』と侮辱したが、プーチン氏は、このような悪口を放置するタイプではない。ウクライナ国境での事態は間違いなく彼の復讐の第一段階である」
またバウノフ氏は、およそ以下の論点を述べて、プーチン氏が強硬に出ているのは警告の意味合いが強いという。
「今回の事態は、ウクライナのゼレンスキー大統領が、従来からのロシアと欧米への中立的姿勢を修正して、ロシアに対して強硬に出たことが主たる原因である。ロシアは、このウクライナの動きを重大な事態とみて国境付近に軍隊を集結、ゼレンスキーに政治的圧力を加えるというものであるだろう。
ロシア、ウクライナ、米国のいずれもが、本当の戦争にまでエスカレートさせることは考えていないであろう。バイデン米大統領がプーチン大統領への電話で首脳会談を呼びかけたことはそうしたシグナルであると思われる」
プーチン氏にとってはウクライナの西側への接近、具体的にはEUやNATOへの加盟こそが「一線を超える」ものとなる。それゆえ今回の軍事的威圧を戦争にエスカレートさせる気はなかった。その姿勢は「対話の橋を燃やしたくない」という年次教書演説にも表れている。
欧米にとって対峙すべき本丸は中国のはずである。西側の失策からクリミア併合後、対露制裁を加えた結果、ロシアを中国に接近させてしまった。その行き着く先の未来について、2019年6月に、大川総裁のもとを訪れたプーチン氏守護霊は、こう予測していた。
「『日本もアメリカも、もう全然進まない』ってなったら、中国とロシアがつながっているだけでも、両国とも生き残れるからね、少なくとも。両方合わせれば、けっこうな力ではあるからねえ。だから、その場合に、ロシアは心ならずも、中国がアジア諸国を植民地化し、アフリカを植民地化し、ヨーロッパを金融で牛耳る世界の実現に加担しなきゃいけないかもしれない」(『メドベージェフ首相&プーチン大統領守護霊メッセージ 「日露平和条約」を決断せよ』所収)
西側には制裁を通じ、ロシアを中国側に追いやってしまったことに対する反省が今こそ必要である。
そして西側がウクライナに「ミンスク合意」を履行するよう促したり、ウクライナにNATOにもEUにも加盟しないよう説得し、それをロシアに保障したりしなければならない。
さらに制裁解除の上、トランプ氏が試みたように同国をG8に復帰させるべきである。
プーチン氏が軍部隊を撤収させた「善意」を弱さと解釈してはならない。
アメリカおよびEUがウクライナに「ミンスク合意」を履行させる意志がないなら、日本は西側をつなぐ"かすがい"を買って出るべきだろう。
現在の日本はロシアから見て「アメリカの従属国」でしかない。そんな日本の立場を刷新することが、新たなロシアとの信頼関係の構築には不可欠だ。それは近い将来、日本が二正面作戦を強いられるのを防ぐために、今やらなければならないことである。米露仲介は、日本にとって国益そのものだと言える。
(長華子)
【関連書籍】
『「日露平和条約」を決断せよ』
幸福の科学出版 大川隆法著
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