期待される日本の「ファイブ・アイズ」への加盟 同盟のコアにあるインテリジェンスの共有が同盟を深化させる(前編)【HSU河田成治氏インタビュー】
2020.12.27
《本記事のポイント》
- 秘密の共有は、深い信頼関係が前提となる
- 「グローバル・ブリテン」構想における最も信頼できるパートナーとしての日本
- 「ファイブ・アイズ」への加盟のメリットは、インテリジェンスの次元にとどまらない
「対中包囲網の中核になるのではないか」と注目を集めているのが、「ファイブ・アイズ」だ。英米豪加にニュージーランドを加えたアングロサクソン5カ国からなる地球規模の枠組みで、各国が傍受した通信などの情報をシェアし、外交や安全保障に生かす。ここに日本も加わるべきではないか、という議論が起きている。
ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)で安全保障学や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーに、日本が「ファイブ・アイズ」に入ることの意義について、語ってもらった。
(聞き手 長華子)
対中宥和に傾くアメリカを西側に引きとどめなければならない
河田 成治
──最近、日本の「ファイブ・アイズ」加盟に関する議論が多くなってきています。その理由はどこにあるのでしょうか。
まず前提として、日本をとりまく国際情勢、とりわけアメリカの政治に起こり得る変化についてお伝えしておきましょう。
大きなところでは、米大統領選の組織的計画的で巨大な不正により、バイデン政権誕生があるかもしれません。
バイデン氏のスタッフには、オバマ政権時代に活躍した人が戻ってくる予定です。米外交に大きな影響力を持つ国際政治学者ヘンリー・キッシンジャー氏も、最近のインタビューで、「現在ぎくしゃくしている米中の意思疎通を修復することがバイデン次期政権にとって急務になる」と答えています。中国に対しては関係修復が進められていく可能性が高くなります。トランプ政権下で行われてきた中国への強力な圧力と制裁が、緩和される可能性は高いと見ていいでしょう。
この懸念を払しょくするには、日本がリーダーシップを発揮するべきです。中国の覇権主義的な行動を抑止するため、まずは日米豪印の4国(クワッド)で連携し、さらにはイギリスとも関係を強化することで、多国間の結束を強めていくことが急務となるでしょう。
大川隆法・幸福の科学総裁は12月8日に行った法話「"With Savior"─救世主と共に─」で、「(中国による覇権の未来は)日本を含め、周辺国やヨーロッパの国々も合わせて、どう対応するかによって変わります」「中国にはまだそれ(即座に覇権を握る)だけの力は実際にはございません」と述べられました。
現在であれば、まだ同盟国の関係強化によって、中国の覇権拡張主義を押し止められる段階にあります。
ただ中国の側も、猛攻をかけているように見えます。
例えば対イギリスです。同国はEU離脱を果たし、「グローバル・ブリテン」構想を掲げてインド太平洋への回帰を目指し、来年早々にも空母「クイーン・エリザベス」を東アジアに派遣する予定で、軍事的にも中国との対決姿勢を強化する予定でした。
そのイギリスが"狙い撃ち"されるかのように、新たなコロナウィルスが見つかり、猛威を振るっています。米国で"一定の目標"を達成した中国が、次の脅威であるイギリスへの攻撃を行っている可能性を疑うべきだと考えています。
中国は、生物兵器による攻撃が、マスコミの愚かさもあって国際的な糾弾や報復を招いていないことに味を占め、今後もウィルスの種類を変えつつ、攻撃を継続していくでしょう。攻撃対象は、中国の主たる敵である、アングロサクソン諸国とインドです。その狙いは、アングロサクソンの衰退です。
こうした動きを封じ込める力として、日本に期待されることは大きいのです。
ジョンソン英首相やトゥーゲンハット英下院外交委員会委員長らは2020年の夏以降にも、「ファイブ・アイズ」に日本を加えることに前向きな発言をしています。機が熟しつつある中、加盟を通じて日本とアングロサクソン諸国との関係を強化することは、中国の狙いを押しとどめるものになります。
秘密の共有は、深い信頼関係が前提
──「ファイブ・アイズ」が始まった経緯について教えて下さい。
「ファイブ・アイズ」は当初、ソ連と東欧諸国に対する監視を目的としていました。米英間で最高機密共有ネットワークである「米英情報伝達協定」が交わされた1946年につくられています。その後、1948年にカナダ、1956年にオーストラリアとニュージーランドが加わりました。
その存在が明らかになったのは、10年前。2010年に英政府通信本部(GCHQ)の機密文書が一部公開されたことによります。
しかしこの傍受システムは、濫用される危険性も指摘されてきました。80年代に、イギリスのサッチャー首相が、カナダの傍受機関に依頼して自身の政敵を監視し排除するなどしたことが問題視されました。
こうしたケースの再発を防ぐため、として、「互いの国を監視しない」といった取り決めも含めた通信傍受協定が結ばれました。それが「英米協定」という意味の「UKUSA協定」です。ここに加・豪・ニュージーランドが加わり、5カ国による地球規模での通信傍受ネットワークができ、現在の「ファイブ・アイズ」となったのです。
アメリカで通信を傍受する「シギント機関」にあたるのは、「国家安全保障局 (NSA)」です。協定ではNSAを司令塔に、スパイ衛星や世界中の通信傍受・解析情報をデータベース化し、5カ国で共有することになっています。
NSAはそれ以外の同盟国における情報インフラも取り込むべく、「ファイブ・アイズ」よりも連携レベルの低い多国間協力の仕組みをいくつも作っています。例えば「ファイブ・アイズ」にフランスやオランダなど欧州4ヵ国を加えた「9アイズ」。そこにさらにドイツやイタリアら5ヵ国を加えた「14アイズ」などが存在します。
ここで大切なのは、「秘密の共有は、深い信頼関係がなければ成立しない」ということです。米英同盟は「特別な関係」と呼ばれていますが、それはインテリジェンスを深く共有する国家関係だからこそだと言えます。逆に、インテリジェンスが深いレベルで共有されない状態では、真の同盟関係を築くのは困難になるということです。
日本の「ファイブ・アイズ」加盟の意向に対して、英米から「日英米の『スリー・アイズ』でもいいのではないか」という逆提案もあったといいます。それだけ両国の、日本に対する信頼と期待が大きいということです。
この点を勘案しますと、日本が「ファイブ・アイズ」に加入して「シックス・アイズ」が生まれることで、日米同盟はさらに強固となり、両国はより対等なパートナーになっていく。またイギリスとの関係でも、新たな日英同盟への地平を開くものになるのではないかと考えられます。
日本をファイブ・アイズに加盟させたいのはなぜか
──英米が、本来ならアングロサクソンだけに留めておいてもよい「ファイブ・アイズ」に、日本を加盟させたいと考えるようになったのには、何か背景があるのでしょうか。
まず米英側で、「日本の収集する通信情報を得たい」という動機が高くなっているという点が挙げられます。
日本で通信傍受を行っているのは防衛省情報本部です。日本の通信傍受能力は高いレベルにあり、ロシア、中国、北朝鮮などの電波信号を傍受・分析し、データを蓄積しています。
この情報はすでに米国とやり取りされてはいますが、通信傍受による情報は日本が持つ数少ない独自情報です。
またイギリスは空母をアジアに常駐させる計画を持っていて、今後、中国海軍と直接対峙する可能性があります。こうした国々にとって、日本が持つ中国軍の情報は価値が高いのです。
変化する日米同盟 東アジアの厳しい安全保障環境に中心的な役割を期待
さらに2020年12月、第5次アーミテージ=ナイ報告書「The U.S.-Japan Alliance in 2020 AN EQUAL ALLIANCE WITH A GLOBAL AGENDA」で、改めて「日本をファイブ・アイズに入れるべきだ」という主張がなされました。
中国の台頭によるアジアの力関係の変化により、アメリカは「日本が主導的とまではいかないまでも、日米同盟の中で対等な役割を果たしている」と、その主体的行動を高く評価しています。
アメリカは、対等な同盟関係へと発展させていくことで、同盟関係から最大限の価値を引き出すべきと考えており、日本の「ファイブ・アイズ」への加入は、そのために重要だという認識を持っていると思われます。
こうした報告書を読むときの前提として押さえておきたいのは、日米同盟の質が変わってきたという点です。
アメリカにとって日米同盟は、「グローバルな連携の要」になってきつつあります。つまり、日本防衛といった役割を超え、パンデミック、世界経済の混乱、中国の台頭・地政学的挑戦といったさまざまな困難な課題に、共に協力して乗り越えるための最も重要な源泉であり、公共財だと考えているのです。
さらに日米豪印の「クワッド」(4ヵ国連携)、対北朝鮮のための日米韓の政策調整、ASEAN諸国との連携強化などといった地域の安全保障課題においても、中心的な役割を日米で分担することが期待されています。
「グローバル・ブリテン」構想における最も信頼できるパートナーとしての日本
一方イギリスも、日本に接近しようとしています。それは2015年に発表した「国家安全保障戦略」の中で、日本を「同盟」と明記し、アジアにおいて最も重要なパートナーと呼んだことに表れています。
同国はEU離脱後に「グローバル・ブリテン」構想を掲げ、インド太平洋への回帰を目指しています。その思惑は、ヨーロッパ側からユーラシアの大国(ロシア・中国)の封じ込めを担当し、日本には東側からの封じ込めをやってもらいたいというものです。
地政学上、日本はイギリスにとって重要な地位を占めているからです。
このようなイギリスのスタンスは、複数の下院議員の「対中国の観点から、日本が6番目の加盟国となって、軍事や情報だけでなく、戦略的経済協力関係に拡大する可能性がある」といった発言にも表れています。
オーストラリア:「シックス・アイズ」の自由貿易圏構想
オーストラリアも、日本を加えた「シックス・アイズ」構想に前向きです。
それのみならず、医療品やレアアースなどの戦略物資を「シックス・アイズ」加盟国間で取引するという、中国を排除した太平洋の自由貿易圏構想も提案しています。情報共有の枠組みを超えた戦略的な経済連携を目指していると言えるでしょう。
ファイブ・アイズへの加盟は、インテリジェンスの次元にとどまらない
──では、日本としてはどうすべきでしょうか。
日本と「ファイブ・アイズ」との連携は既に始まっているため、政府は「新たに『シックス・アイズ』の枠組みを作って、中国との対決姿勢を鮮明にすることは避けたい」と考えるかもしれません。現状の枠内で「連携」を強化していけばいいのではないか、との意見もすでに出てきています。
もっともらしく聞こえる見解ではありますが、「ファイブ・アイズ」加盟の意味は、インテリジェンスを中心とした提携を単に進めることにとどまりません。
現在起きている戦いは、「自由で民主的な価値観」と「唯物論で無神論国家の全体主義的価値観」との文明の衝突です。この戦いに勝利するために、インテリジェンスを含めた、様々な次元での協力関係を深化させていくことが重要なのです。
またこれまで述べてきたように、インテリジェンスは深い信頼関係がなければ連携出来ない、同盟関係のコアにあたるものです。
この意味で、「ファイブ・アイズ」加入という明白な事実を作ることは、「自由・民主・信仰」といった価値観を重視する側に立つという旗幟を鮮明にすることでもあります。日本は人類の普遍的価値観のために殉じることができる国かどうかが、いま問われていると言えるでしょう。
次回は、日本がファイブ・アイズに加わる前提として、外交政策・防衛政策における日本のインテリジェンスの問題点について、お話していきましょう。
※インテリジェンスとは、一般に「情報」と訳されますが、単なる情報とは区別されます。様々に収集した情報ソースに分析・評価を加え、外交や政策判断のために使えるレベルにまで付加価値を高めた、製品としての「(秘密)情報」のことを呼びます。
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の「インテリジェンス」などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ )。
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