香港衆志(デモシスト)副主席インタビュー 最前線で「国家安全法」と戦う香港の若者は今
2020.06.01
2020年5月27日、「国家安全法」に反対するデモを行う市民に向かって催涙弾を乱射する香港警察。(写真提供:デモシスト)
中国全国人民代表大会(全人代、国会)で香港への統制を強める「国家安全法」導入が正式に決まったことを受け、香港市民は危機感を募らせている。
アグネス・チョウ氏や、ジョシュア・ウォン氏などが所属する香港の民主派政党「香港衆志(デモシスト)」の副主席・アイザック・チェン氏に、直近の香港情勢について聞いた。
(聞き手:国際政治局 小林真由美)
鄭家朗
プロフィール
(アイザック・チェン)1999年、香港生まれ。2017年4月から民主派政党「香港衆志(デモシスト)」の副主席を務める。
──中国政府による「国家安全法」の香港への導入が決定したことについて、どう感じていますか。
中国の警察が香港に来て、香港人を逮捕できるようになること、これが最前線に立つ私たちの最大の懸念です。
これまでの香港には、少なくとも言論の自由やデモに参加する自由はありました。しかし状況は一変し、今後は、こうした反政府運動を行うと、ただちに逮捕され投獄される恐れがあります。
そうなると香港市民は今以上に"自主規制"をして、反政府デモなどの政治運動に参加しづらくなります。市民の反対の声がなければ、香港政府は香港を中国化するさまざまな法案を、より簡単に通過させてしまうでしょう。
──「国家安全法」の動きは、今後の香港の反政府デモにどのような影響を与えますか。
すでに「国家安全法」に反対するデモで、数百人もの市民が逮捕されています。
香港では毎年6月4日に、天安門事件の犠牲者を追悼する大規模な集会が開かれます。現在、香港政府は「新型コロナウイルス対策」として公共の場での9人以上の集まりを禁じていますが、私たちは各駅で実質的に集まるよう香港市民に呼びかけています。
政府は集会を禁止できても、それに対抗する市民の思いをシャットダウンすることはできません。私たちは今こそ、絶対に撤退するわけにはいかないのです。
習近平政権は誤算ばかり
──「一国二制度」が崩れれば、香港の国際金融都市としての価値は失われます。習近平指導部はなぜ今、香港に国家安全法を導入しようとしているのでしょうか。
習近平政権は香港も、中国と同じように統治したいと考えています。香港市民が中国の言うことを聞かないので、統治の邪魔になる「一国二制度」を取り上げようとしているのです。
しかし習近平氏は、香港が現在の特別な地位を失ったら、中国経済にどれほど悪影響があるかを理解していないようです。
習近平政権は香港に対する政策において誤算ばかりしています。「逃亡犯条例」改定案の時も、香港市民があれほど激しく反対するとは予想していなかったでしょう。また、今回の「国家安全法」についても、アメリカがこれほどすぐに中国に対する制裁措置を発表するとは想定していなかったはずです。
──今年9月の香港での立法院選挙におけるデモシストの予定を教えてください。
今年の選挙では、今のところ、デモシストを代表して2人が出馬予定です。親中派の議員が多いので、立法院の中から大きな政治的な動きを起こすことは難しいのが実態ですが、私たちは選挙を、中国共産党の香港支配に反対するチャンスと捉えています。
政治的な理由による逮捕
デモシストが流通させようとしたマスクのパッケージ(写真提供:デモシスト)。
──あなたは今週、"Not made in China"とラベルに書かれたマスクを香港内に流通させようとして、香港警察に逮捕されました。この事件の真相について教えてください。
香港政府は、コロナ・パンデミックの渦中、香港市民を守るためにマスクを流通させる措置を取りませんでした。香港のマスクの流通を助けたのは、企業やNGOなどの民間団体です。なので香港人は、最も危険な時期に、自分の安全を自分で守る必要がありました。
私の逮捕の背景には、政治的な理由があります。香港で製造したマスクの箱に「Not made in China」と書いたのですが、香港政府は「香港は中国の一部である」という考えのため、商品説明に関する規制に違反したとして私を逮捕しました。
もちろん、私が頻繁に反政府デモに参加していること、民主派政党であるデモシストのメンバーであることも逮捕の原因だったと思います。
「教育の自由」も脅かされている
──中国政府は今月、香港の大学入試の歴史の試験問題の中に、1900~45年の日本による中国統治について「弊害よりも恩恵の方が大きかった」かどうかを判断させる設問があったとして、出題者を強く叱責しました。この件をどう考えますか?
中国政府と香港政府は「(日本の侵略が)有害無益だったことは議論の余地がない」と主張していますが、教育の場ではあらゆるテーマについて議論することが許されるべきです。
例えば「中国共産党が悪いことをした」という歴史について議論することすら許されなければ、それは教育の自由が脅かされていることを意味します。
香港の教育機関ではこれまで、討論や分析を推奨する自由な風潮がありましたが、「一国二制度」が失われることで、こうした教育の自由も失われることに、学生として強い危機感を抱いています。
「国家安全法」の香港導入で、香港の自由はかつてないほど脅かされています。私たちは、香港の自由と民主主義を守るために、これからも勇気を持って戦い続けるつもりです。
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2020年5月29日付本欄 「中国で拷問された」在香港英国総領事館の元職員が語る「香港国家安全法」の危険性
https://the-liberty.com/article/17223/
2019年9月18日付本欄 香港政党「香港衆志(デモシスト)」副主席が語る 香港デモの未来と日本への期待
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