香港デモは「第2次天安門事件」になるか? にらみきかせる英・米・台湾【澁谷司──中国包囲網の現在地】

2019.08.18

写真:Dave Coulson Photography / Shutterstock.com

《本記事のポイント》

  • 面子にかけて香港を鎮圧したい北京
  • 経済制裁のジレンマも
  • 英米もにらみをきかせ、台湾総統選に影響する可能性も

周知の通り、香港では「逃亡犯条例」改正反対運動(以下「反送中」運動)と警察側との対立が激化している。香港政府は、すでに"機能不全"に陥っていると言っても過言ではない。

「反送中」運動の一部は、立法会に乱入したり、香港国際空港を占拠したりした。ボルテージは相当上がっている。

しかし、それを「暴徒」とみなして鎮圧しようとする警察側のやり方も、常軌を逸し始めている。

香港警察が発射した布袋弾(ビッグ弾)が、デモ隊の女子の右眼に当たり、失明させたと報じられている。また、香港警察の中には広東語を話せる本土の武装警察が紛れこんでいるという。

さらに、香港政府やそのバックに控えた中国政府は、香港マフィア(三合会)の「白シャツ隊」を使って、デモ隊を襲わせている(元朗事件)。

北京政府は、いつでも武装警察(あるいは人民解放軍)を香港に投入できるよう、隣接する広東省・深セン(土へんに川)に装甲車500台を集結させている。これは、デモ隊に対する"脅し"と取れる。

面子にかけて香港を鎮圧したい北京

習近平政権は、中国国内でも人権派弁護士を一網打尽にしてきた。少数民族のウイグル人やチベット人も抑圧。同時に、国内のあらゆる宗教を弾圧している。これだけの"実績"を残しておきながら、今さら香港の混乱をこのままにしておくことは、面子にかけてもできないだろう。

さらに中国は10月1日、建国70周年記念行事を控えている。香港の混乱がそれまで続くようであれば、安心して式典を行えない。北京としては、早ければ8月中、遅くても9月上旬頃までには、この香港問題を収拾させたいはずだ。習近平政権は、遅かれ早かれ香港に武装警察、ないしは人民解放軍を投入するつもりなのではないか。

経済制裁のジレンマも

しかし北京政府は、大きなジレンマを抱えている。

仮に香港で「第2次天安門事件」を起こせば、30年前同様、欧米を敵にまわし、厳しい経済制裁を受けるだろう。

そうでなくても、中国は景気が悪い。7月の食料品価格は前年同月比9.1%も上昇した。明らかなスタグフレーションである。これ以上、中国経済が落ち込めば、習近平政権はもたなくなる。

英米もにらみをきかせる

国際社会はすでに、にらみをきかせはじめている。

米国はドック型輸送揚陸艦であるグリーン・ベイ号と、ミサイル巡洋艦であるレイク・エリー号を8月17日と翌9月に、それぞれ香港へ寄港させようとした。中国共産党による「反送中」運動弾圧をけん制するためである。

もっとも、習政権は米国の要求を拒否したというが(北京はアメリカからそのような要請はなかったと否定している)。

また、トランプ大統領は13日、自身のツイッターで「中国政府が香港との境に軍を移動させている、と米情報機関から我々に報告があった。誰もが無事であるべきだ」とつぶやいた。「誰1人として死傷者を出すべきではない」という意味であり、これもけん制だ。

さらに翌14日、ジョン・ボルトン米国家安全保障問題担当大統領補佐官は、「中国政府が香港で第2の天安門事件を起こすのは大きな間違いだろう」と北京に警告している。

また、英国ではドミニク=ラーブ外務・英連邦大臣も、香港市民に英国籍を与える方針を打ち出した。今後、香港市民が香港を脱出する必要が生じるかもしれないからである。1997年7月に香港が英国から中国に返還させる際も、ロンドンは多くの香港市民に英国籍を与えた。今度も、当時と似た状況になる公算が大きい。

台湾総統選に影響する可能性も

台湾政府も、香港市民の受け入れ準備を始めた。実際、近年、香港から台湾への移住者が増えている。香港の未来に希望が持てないからだろう。

大部分の台湾人は、香港人の「反送中」運動を支持している。蔡英文総統としても、香港人を台湾に受け入れることは、来年1月の次期総統選挙においてプラスになるだろう。

現在、中国国民党の韓国瑜高雄市長や、結党したばかりの「台湾民衆党」の柯文哲台北市長も、来年の総統選に出馬予定である。

だが、香港で混乱が続く限り、中国と距離を置く民進党の蔡英文総統の再選は確実ではないか。ましてや、香港で「第2次天安門事件」が起これば、蔡総統の再選は間違いないだろう。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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