映画「海は燃えている」が公開 難民の表情から読み取れる複雑な感情

2017.02.13

北アフリカから地中海を渡ってくる難民を、間近で撮影したドキュメンタリー映画「海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~」が11日、公開された(各地の上映館・日程などは下記【関連ページ】参照)。

イタリア・ランペドゥーサ島(Natursports / Shutterstock, Inc.)。

イタリア最南端の島、ランペドゥーサ島は、地中海に浮かぶ風光明媚な島。「船が浮いて見える」ほど透明度が高いターコイズブルーの海は、「世界一の絶景」とも評されるほどだ。

しかし、この島は悲しい現実と隣り合わせだ。アフリカや中東から命がけで地中海を渡り、ヨーロッパを目指す難民の目的地。それがこの島のもう一つの顔だ。島の人口約5500人に対して、5万人を超える難民・移民が、この島へやってきている。

「毎日が緊急事態」の島

映画では、この島で暮らす人々の姿と、難民の実情が交互に描かれる。次第に両者の接点が明らかになるのかと思いきや、最後まで別々に描かれる。

唯一両方のシーンに登場するのは、島にたった一人の医師ピエトロ・バルトロ氏。船から救助された妊婦を診察したり、船の中で亡くなってしまった人たちの遺体の収容に立ち会ったりする傍ら、島の少年の健康診断などもする。

本作の監督であるジャンフランコ・ロージ氏は、この映画を撮るにあたって、ランペドゥーサ島に引っ越し、古い港の小さな家を借りて住んだという。その理由をこう語る。

「緊急事態が生じたときのみランペドゥーサ島に取材に押し寄せるメディアの習慣を超えることが必要だったのです。そこに住んでみて、緊急事態という言葉が無意味だと知りました。毎日が緊急事態だからです」(プレス資料より)

住民と難民、それぞれの素の表情をとらえた作品と言えるだろう。

難民とテロ、難民と悲しみ

本作は、難民の状況などについて特に説明されていないので、日本人が観るには予備知識が必要かもしれない。日本への難民申請者は、2016年には1万901人と初めて1万人を超えたが、難民認定されたのは28人とまだまだ少ない。

しかし、ヨーロッパの人々は、アフリカや中東から押し寄せる難民が年々増えていく様を間近に見ており、2015年1月にフランスで起きたシャルリー・エブド襲撃事件を皮切りにテロの脅威も感じている。

一方で、本作に映し出される難民たちの姿や表情からは、船の中で仲間が死んでしまった悲しみと失望、命からがら逃げて来て島に着いた安堵、これからの生活への不安など、一言では表せないさまざまな感情が読み取れる。これは、ヨーロッパの人々にとって、普段見かける難民の様子とは少し違った一面なのかもしれない。

2010年から2012年にかけて起きた「アラブの春」と呼ばれる、アフリカ北部と中東の複数の国における反政府運動は、当初、アラブ世界も民主化するのではないかと日本や欧米で肯定的に報じられた。しかし、政権が反政府運動を弾圧したり、政権打倒に至った国でも国内の各勢力の対立が激化するなど、多くの国において結果は望ましいものではなかった。

特に北アフリカのリビアでは、カダフィ独裁政権が崩壊して過激派勢力などが台頭したことで政情不安が続き、沿岸警備が手薄になって密航仲介業者も暗躍。周辺国からリビアを経由してヨーロッパに渡る人が激増した。中東のシリアでも、内戦激化とイスラム国(IS)の台頭により、人口2200万人のうち500万人近くが周辺国へ避難する事態となっている。

難民の受け入れと同時に、混乱が続く国々の政治体制を安定させる努力、難民に紛れてテロリストが入国することを防ぐ水際対策など、様々な課題がある。

難民問題に対してまだまだ関心の薄い日本だが、世界有数の経済大国として、国際協力できることがもっとあるのではないか。無関心でいてはいけないと教えてくれるドキュメンタリーだ。

(大塚紘子)

【映画情報】

  • 監督/ジャンフランコ・ロージ 2016年/イタリア=フランス/114分
  • 配給/ビターズ・エンド
  • 2017年2月11日(土)より、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー!
(C) 21Unoproductions_Stemalentertainement_LesFilmsdIci_ArteFranceCine?ma

【関連ページ】

映画「海は燃えている」公式ホームページ

http://www.bitters.co.jp/umi/

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