《記事のポイント》
- 北朝鮮の一般市民の様子を映す映画が公開予定
- 撮影中に北朝鮮側の「やらせ」に気付いた監督
- ミサイルだけでない北朝鮮の「横暴」を考えさせられる
北朝鮮の一般市民の様子を垣間見ることのできる貴重なドキュメンタリーが21日、シネマート新宿ほか全国で順次公開される(劇場情報などは関連ページ参照)。「太陽の下で―真実の北朝鮮―」という作品だ。
ロシアのヴィタリー・マンスキー監督は、北朝鮮政府から2年かけて許可を得て、平壌の一般家庭に密着取材を敢行。北朝鮮の市民の日常を記録するドキュメンタリー映画を撮るはずだった。ところが、撮影には北朝鮮側の"付き添い"が常に同行し、出演者たちに指示を出す……。完全なヤラセだと気づいた監督とスタッフは、録画スイッチを入れたままの撮影カメラを放置し、隠し撮りを始める。
監督は、主役として選ばれた8歳の女の子、ジンミちゃんの自宅での撮影が始まったときのことをこう語る。「撮影を進めるなかで、家具はまだ新品で、棚の中は空っぽ、浴室も使った形跡がないことに気づきました。この高級マンションは、撮影の時期に限って与えられたんだな、とすぐに勘ぐりましたよ」(プレス資料より)。
一家だんらんのシーンに謎の男
ジンミちゃんが両親と食卓を囲むシーン。白壁の殺風景な部屋の真ん中で家族3人が食事をしていると、左側のドアからヌッと謎の男性が現れる。明らかに一家だんらんの食卓にふさわしくないこの人物が、北朝鮮側の"付き添い"らしいとわかる。
繊維工場の技師だというジンミちゃんのお父さんの職場のシーン。字幕で伝えられるのは、実はジンミちゃんのお父さんはジャーナリストだという事実。北朝鮮では「労働」は重要な概念のため、"理想の家庭"を演出するために工場技師になったらしいが、お父さんが工場の人たちに出す指示はやはりぎこちない。
他にも、背景として映っている街の様子がなんだか寒々しかったり、何百人もの人々が指示どおりに動いたり踊ったりしているのにやけに静かだったり、あらゆるシーンに違和感を覚えずにはいられない。
もし北朝鮮で生まれていたら?
各シーンが淡々と映し出されるので、映画としておもしろいとは言えないが、これが現在ただ今、自分が生きている同じ地球上で、日本と海を隔ててすぐ隣の半島の人々が送っている生活なのかと思うと、様々な思いが交錯する。
小学生のときから政府のプロパガンダを暗記させられ、集団で行進したり踊ったり、政府の言いなりになることで称賛される。住まいどころか、両親の仕事も国に決められる――。もし自分が、そうした社会に生まれていたら、どんなことを考え、どんなふうに生きるのだろう。今こうして記事を書いている自分と同じように、違和感や疑問を持つことはできるだろうか。
おそらく北朝鮮では、「政府に従うこと」、そのために「何も考えない」ことが、平穏無事に生きる絶対条件なのだろう。
しかしそれでは、人生で得られる教訓も少なければ人格の成長もさほど望めない。人生の意味という点から考えても、一日も早く、北朝鮮の国民を解放しなければいけない。北朝鮮の横暴については、核ミサイル開発を進めているという点で語られることが多いが、本作を観ると、それだけではないと感じる。
(大塚紘子)
【映画情報】
- 監督・脚本/ヴィタリー・マンスキー
- 出演/リ・ジンミほか
- 2015年/チェコ=ロシア=ラトビア=北朝鮮合作/110分/カラー
- 配給/ハーク
- 2017年1月21日(土)シネマート新宿ほか全国ロードショー
(C) VERTOV SIA,VERTOV REAL CINEMA OOO,HYPERMARKET FILM s.r.o.ČESKÁ TELEVIZE,SAXONIA ENTERTAINMENT GMBH,MITTELDEUTSCHER RUNDFUNK 2015
【関連ページ】
「太陽の下で」公式HP
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