最近、日本の株価が上昇し、雇用環境も回復している。経済は好調のように見えるかもしれない。

しかし、世界を見渡せば、南シナ海の紛争やギリシャの債権不履行問題など、経済危機を引き起こしうる政治的な不安要素は多い。また、リーマン・ショックを引き起こした「不良債権の山」という問題も消えたわけではない。実際、ここ数十年で特筆すべき経済危機の直接原因は、不良債権だったと言っても過言ではないのだ。

今年の5月、アメリカにおけるM&A(企業の合併・買収)の額が過去最高の2430億ドルに達したことを、米ビジネス・インサイダー紙が報じた。また、過去の記録は、2007年5月の2260億ドルと、2000年1月の2130億ドルであり、両方とも経済危機・金融危機の数カ月前に記録したという。

もちろん、過去の事例が今回にも当てはまるとは限らない。しかし、このM&Aには二つの考え方がある。

一つは、M&Aによって企業が新しい事業を始めたり、いままで進出できなかった市場に入り込むこともできるという考え方。2006年に、ディズニーが映画会社・ピクサーを買収したのが良い例だ。それまで子供用の映画を製作していたピクサーと、それらの映画のマーケティングや販売を担当していたディズニーが1つの会社になることで、より円滑に事業を進めることができるようになったのだ。

もう一つの考え方は、企業が帳簿上の数字を「良く見せるため」にM&Aを行うケースだ。企業を買収し、社員をクビにすることでコストを削り、利益を出す。また、他の企業を買収することで、その企業の収益が加わるので、たとえ新しい事業や付加価値の創造につながらなくとも、数字上は「収益が上がった」と言えるのだ。

問題は、このようなM&Aが、買収する側の企業が質の悪い債権を発行することで賄われていることだ。この「ジャンク(ゴミ)」債権を、銀行側が他の債権と組み合わせて売るのだ。これは、2000年代にサブプライム・ローンを発行していた金融業界のやり口と酷似している。

不良債権を大量に発行して、「数字を良く見せた」ところで、それは砂上の楼閣にすぎない。企業や経済を成長させるには、ピクサーやディズニーを発展させたスティーブ・ジョブズやマイケル・アイズナーのように、付加価値を創造しなくてはならない。それこそが、リーマン・ショックから世界が学ぶべき教訓ではなかったのだろうか。(中)

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