米軍がこのほど、「透明マント」を製造する企業を募集した。正確には、周囲の景色に合わせてカメレオンのように振る舞う迷彩装置だ。すでに、カナダの「ハイパーステルス・バイオテクノロジー社」が応募し、デモンストレーションしたという。ネットニュース「ニュー・サイエンティスト」などが報じている。
米軍はカメレオン技術を求めている
現在、軍隊でよく用いられる迷彩服には緑色のイメージがあるが、砂漠では茶色、海では青色だ。この迷彩服の色がカメレオンのように、周囲の色に合わせて変われば便利だ。米軍は半年間募集し、選ばれた企業は1年間で試験用の制服を10着提出するという。米軍は、様々な温度や天候で、あらゆる角度から迷彩装置が機能するか検査する。
米軍は本気でカメレオン技術を求めているようだ。米軍の技術的優位を確保するために作られた、米国防高等研究計画局(DARPA)も、2007年から透明マントを研究している。
透明マントを作るには?
電源のいらない迷彩マントの原理は2006年、イギリスの物理学者ジョン・ペンドリー氏が提唱した。マントの内部で光を迂回させて反対側から飛び出させ、マントの内側に何も存在しないように見せる。
そのためには、マントの光の屈折率を完全にコントロールする必要がある。自然界に存在する物質のうち、金属は完全に光を反射し、水晶や純水は光をほとんど透過させる。透明マントは、自然界の物質で作ることは不可能で、必要な条件を満たす物質を人工的に作る必要がある。こうしたものはメタマテリアル(超越物質)と呼ばれる。
透明マントにつながる技術が日本で開発された?
その技術の一部は、すでに実現している。透明マントに求められる条件の1つは、表面でキラキラとした反射を起こさないことだ。あらゆる方向から来る光を反射しないメタマテリアルは、理化学研究所の田中拓男氏が開発し、昨年発表している。光の波長である数百ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)よりも小さな金属の構造体を、規則的に繰り返すことで実現した。
田中氏はアメリカやチェコ、イスラエルなど世界から講演に招待されており、多くの国が関心を持っていることが伺える。迷彩マントが完成すれば、先を争って欲しがるだろう。
光をコントロールするメタマテリアルは原子レベルで精密に作る必要があり、高い製造技術が求められる。また、メタマテリアルには迷彩マントの他にもさまざまな応用が考えられている。
実用化のための課題はまだまだ残されているが、「ドラえもん」や「ハリー・ポッター」など、物語によく登場する迷彩マントを実際に見られる日が近づいているかもしれない。日本の研究にも期待したい。(居)
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