京都大学のiPS細胞研究所と武田薬品は、iPS細胞を使った創薬や細胞治療の共同研究を進めることを発表した。神経系疾患やがんなどの新しい治療薬を効率よく、低コストで開発することが狙いだ。

iPSの研究は、主に国の支援で年40億円の予算規模で運営するが、武田との共同研究によって10年間で200億円上積みされる予定だ。また、同社の研究所で京大iPS研の山中伸弥教授率いる約50人の研究者が活動するなど、産学連携によって開発力を強化できる点が注目されている。

膨大な時間と労力、研究開発費がかかる新薬開発

新薬開発はまさに、砂漠のなかからダイヤモンドを探すような努力が必要だ。マウスでの試験結果が良好でも、いざ治験で人に使用してみると、予期しない副作用が発生するなど、さまざまなリスクがあるため、成功率は3万分の1ともいわれている。また、プロジェクトを立ち上げてから晴れて市場に出るまでには、最短でも10年、研究によっては20年近くかかることもある。さらに、1つの薬にかかる研究開発費は約200億~300億円、大型の研究では500億円~1000億円に上る。

やっとの思いですべての基準と試験をパスして完成した新薬は、市場に出る前に厚生労働省の煩雑な審査のプロセスを踏み、承認を得る必要がある。

「混合診療」の拡充で診療の選択の幅が広がる

新薬は価格が高く、医療保険でカバーすると医療費の増加につながる。そのため、現状では、効果に比べて莫大な費用がかかる先進医療が公的保険に適用されないことが多い。公的保険を外れた薬は患者が全額負担するしかないが、「混合診療」を拡充し、費用の一部を公的保険で賄うことで、新薬を使いたい患者の選択肢を広げることができる。

薬の公定価格を決めている厚生労働省は、販売予想を大幅に上回る売り上げを出す医薬品は、強制的に薬価を引き下げることも検討している。これに対し、製薬会社は「市場で求められている医薬品の価格を強制的に引き下げることは、製薬会社の研究開発意欲を削ぎ、医療の進歩を後退させる」と反発している。

薬の価格にも市場原理を反映すべき

そもそも製薬会社は自由主義経済下の営利企業で、医療保険制度は国民全員を平等にカバーする公的制度だ。国が薬の価格を決める現在の制度では、製薬会社は莫大な開発コストを回収できず、さらなる研究開発への積極的な投資が難しくなる。また、医療者は保険制度に縛られて、使いたい薬が使えないことが多く、患者の症状に合わせた自由な医療ができない。

薬の価格についても、公正で自由な競争を確保し、それが薬価に反映されるように変えていくべきだ。それによって、医師が患者に適正な薬の提供を自由にすることができ、患者も主体的に幅広い選択肢から選べる体制にすることが望ましい。研究者による新薬開発のモチベーションを損ったり、患者の診療の制限につながるような制度は改革していかなければならない。(真)

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