2015年4月号記事

ピケティブームがあなたの給料を減らす

本当の「資本主義精神」とは何か?

今世界で最も話題となっている経済学者、トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』が、世界で累計売上150万部を突破した。

「格差」を切り口に「資本主義の矛盾」を指摘する同書は、「収入が上がらない」「将来、自分は食べていけるのか」といった、人々のくすぶる不満や不安に火をつけている。しかし、本当に将来の収入が不安なら、このブームには気をつけなければいけない。本記事では、ピケティ理論の正体に迫りながら、「格差問題」「経済成長」「金融」の3つの視点で「資本主義の本当のあるべき姿」を考えていく。

(編集部 小川佳世子、馬場光太郎、中原一隆、小林真由美)


本誌Contents

Part.1 格差問題(r>g)

本誌 p.28 3分でわかるピケティ理論

本誌 p.30 富裕層は固定されていない

米税金財団主任経済学者 ウィリアム・マクブライド

本誌 p.31 資産課税は全国民を貧しくする

米税金財団上級研究員 マイケル・シュイラー

Part.2 経済成長(g)

本誌 p.34 「成長あきらめ論」は正しい?

本誌 p.35 「クリエイティブ・クラス」が経済成長の原動力になる

都市経済学者 リチャード・フロリダ

Part.3 金融 (r)

本誌 p.38 ウォール街の稼ぎは不当?

本誌 p.40 惚れた人物や事業に投資するべき

評論家・日本財団特別顧問 日下公人

Conclusion

本誌 p.44 一人ひとりの「精神」が経済の盛衰を決める

ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ 経営成功学部ディーン 鈴木真実哉


contents


Part1

格差問題

3分でわかるピケティ理論

今、世界で最も注目を集めるフランスの経済学者、トマ・ピケティ。講演などのために訪れる先々の国で「その姿を一目見たい」と、ロック・スター並みの聴衆が集まります。一体、何者なのでしょうか。

経歴を見ると、彼は絵に描いたようなエリート学者です。22歳にしてロンドン経済学校で博士号を取得。米マサチューセッツ工科大学で教鞭を取り、パリ経済学校設立にも携わりました。

そんな彼を一躍スターに押し上げたのは、著書『21世紀の資本』の大ヒットです。この本は700ページを超す上に、内容は学術的で難解なもの。なぜこれほど売れているのでしょうか。

資本主義では必ず格差が開く

その理由は、約15年かけて、300年間の世界経済に関する情報を分析し、資本主義の"ある法則"を明らかにしたからです。

その"法則"はとてもシンプル。 「資本主義では、富める者はますます富み、持たざる者との格差が開く」というものです。その理由は「お金持ちの財産が増えるスピード」が、「一般的な労働者の給料が増えるスピード」よりも速いから。 この法則は、「r>g」という式で表されます。

「r」はreturnの頭文字で、「資本収益率」のこと。投資などで個人や企業が持つ資本(お金、株など)が増えていくスピードです。「g」はgrowthの頭文字で、「経済成長率」を指します。これは、労働者の給料と比例するとされます。ピケティは、21世紀の後半にかけての「r」は4~5%程度、先進国の「g」は1・5%程度だと予測しています。

具体的な例で見てみましょう。

1億円の資産を持つAさんは、その資産を配当利回り4%の株式に投資し、1年で400万円儲けることができます。増えた資産を同じ株式に投資すれば、さらに大きな利益を得られます。

一方、資産を持たないサラリーマンのBさんの給料は、毎年1・5%しか増えません。そうだとすれば、Bさんはどれだけ働いてもAさんに追いつけないどころか、格差は広がる一方です(下図)。

ちなみに、ピケティは「r>g」という全体の平均をデータで示すのみ。個別には投資が失敗して資産を失うお金持ちがいることや、事業を起こして大企業に育て上げる事業家についてはあまり考えていません。

資産と所得に国際的な課税を

この理論が注目を浴びているのは、「資本主義では、一時的に格差は広がるが、やがて縮小する」というそれまでの説を覆したとされるからです。

ピケティは、格差が広がれば、富裕層が「献金」などによる政治的影響力を増し、民主主義が壊れると指摘。放っておいたら格差が大きくなるので、政府が介入して縮めるべきだとします。

格差是正の方法として彼が提案するのが、富裕層への累進課税です。トップ層には80%の所得税をかけ、資産にも課税すべきだとします。問題が「r>g」の格差にあるなら、rを生む資本を減らそうという発想です。

さらには、富裕層が税金の安い国に逃げないように、世界の国々が協調して税金を取る「グローバル課税」を提言します。これは、マルクスの「労働者を搾取する資本家から収奪せよ」という主張を彷彿とさせます。

ピケティがブームになっているのは、「働いても給与が増えない」という「持たざる者」の不満を代弁しているからでしょう。

次ページからのポイント

ピケティの議論の根本的な問題点

「格差是正」ではなく「成長」

経済騎士道とは