2015年4月号記事

ピケティブームがあなたの給料を減らす

本当の「資本主義精神」とは何か?

今世界で最も話題となっている経済学者、トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』が、世界で累計売上150万部を突破した。

「格差」を切り口に「資本主義の矛盾」を指摘する同書は、「収入が上がらない」「将来、自分は食べていけるのか」といった、人々のくすぶる不満や不安に火をつけている。しかし、本当に将来の収入が不安なら、このブームには気をつけなければいけない。本記事では、ピケティ理論の正体に迫りながら、「格差問題」「経済成長」「金融」の3つの視点で「資本主義の本当のあるべき姿」を考えていく。

(編集部 小川佳世子、馬場光太郎、中原一隆、小林真由美)


contents


Part2

経済成長

「成長あきらめ論」は正しい?

Part1では、ピケティの主張する税制は、経済成長を妨げることを学びました。

しかし、 そもそもピケティは「21世紀には、経済の低成長時代が来る」と予想しています。 そのため人々の所得も増えず、格差が広がるというのです。

その理由は「経済の急成長は、アメリカやイギリスなどの経済大国を追いかける段階ならできたが、多くの国はすでに追いつきつつある」というもの。

確かに日本経済では、長い間低成長が続いています。バブル崩壊後の1991年から2013年までの経済は平均0・9%しか成長しておらず、私たちの給料もさほど増えていません。

こうしたことから、「高成長は無理だ」という声が、ピケティ以外からも多く上がっています。

例えばこんな理屈です。今まで先進国は、農地を広げ、工場を増やす(設備投資する)ことで、製品を作る力(生産性)を上げて、豊かになってきました。さらに、後進国と貿易をして製品を売り込むことで、お金を儲けることができました。しかし今、先進国には物があふれ、後進国も豊かになりつつあります。 これ以上豊かになる余地がない、つまり「フロンティアが残されていない」というのです (注)。

(注)2014年の経済関連の新書で最も売れた『資本主義の終焉と歴史の危機』(水野和夫著 集英社新書)などを参考。

成長否定は資本主義の否定

さらに「そもそも経済成長を目指すべきではない」という人も増えています。

彼らは経済成長を「欲の追求」と断定します。そして、「欲のために苦しんで働いたり、金融危機が起きたりすることが、人間の幸福なのか」と疑問に思っているのです。

資本主義は効率的に経済成長するためのシステム。成長否定は、資本主義の否定でもあります。それではピケティが言うように、21世紀は低成長時代にならざるを得ないのでしょうか。

次ページからのポイント

全ての人が持つ「創造性」

創造性を生む「3つのT」

経済成長のフロンティア

「知識」が富を生む時代