ドイツのハンブルクにある国際海洋法裁判所の内部。( 画像は Tilo 2006 / flickr

耳目が集まっていた衆院選の裏で、南シナ海の対立が顕在化している。

フィリピンが昨年、中国と争う同海の領有権をめぐり、国際海洋法裁判所に提訴したことに対し、中国は先週、「裁判所に管轄権がない」という反論文書を発表した。この問題について、中国が詳細な見解を示した声明書を出したのは、初めてのことだ。

文書では、(1)領有権は、国際海洋法条約の範囲ではなく、領土主権に関わる問題、(2)中国は2006年、境界画定を含む同条約の仲裁手続きを受け入れないと宣言している、(3)提訴したフィリピンは、話し合いによる解決で合意していたとし、提訴はそれを反故にしている、などと記載。国際海洋法裁判所がいかなる判断を下そうとも、それに従うことはないという意思を鮮明にさせた。

中国が領有権の根拠にしているのは、「九段線」の存在だ。「九段線」とは、国民党が1947年に、南シナ海の主権と領海の範囲を確立したことにはじまる。その後に建国した中華人民共和国は、同党の主張を継承。53年、隣国のベトナムへの配慮から、一部を修正して現在に至る。

中国を利する領有権の曖昧さ

九段線

緑色の線が囲まれているのが「九段線」。Wikipediaより。

しかし問題なのは、中国政府がこれまで、「九段線」を正確な座標で示さず、曖昧な姿勢に出ていることだ。根拠が薄弱であるにもかかわらず、中国はしかるべき主張をしていると居直り、自国を利する“根拠"として機能させている。

アメリカの対応が非難のレベルに留まっていることを考えれば、この戦略は今のところ成功していると言える。もし、アメリカが強い態度に出ても、「領有権は当事国の問題」「内政不干渉」などと主張すれば、中国はアメリカの非を問うことができる。

この戦法は、尖閣諸島の領有権問題と似通っている。日中両政府が、同問題を一時棚上げにすることで合意したが、中国が1992年に、同諸島は自国領であるとする領海法を定め、合意を無視した。

冒頭の文書にあるように、南シナ海の領有権について「話し合いによる解決で合意」と主張する中国が、フィリピンに何をしていたか。

まずは昨年、提訴したフィリピンのアキノ大統領の訪中を、突然取り消す報復手段をとった。今年に入ってからは、南シナ海での人工島建設を急ぎ、近いうちに滑走路を完成させるなど、実効支配を強めている。話し合いに乗らないばかりか、周辺諸国を威圧する方針だけは一貫している。

一連の提訴劇は、尖閣諸島で対立する日本にとっても注視すべき問題だ。裁判所に提訴しても、らちが明かないことが判明した今、それ相応の軍事的な抑止力を高めなければならない。(山本慧)

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