南シナ海をめぐる問題で、「法の支配」を訴える日本とアメリカに対し、中国が反発するなど、激しい応酬が繰り広げられている。その裏で、老練な中国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の切り崩しを進めている。

シンガポールで行われたアジア安全保障会議では、実力行使で南シナ海の権益を奪おうとする中国の振る舞いについて、小野寺五典・防衛相とヘーゲル米国防長官が「力による現状変更は認めない」という認識で一致した。これに対し、中国の代表である王冠中・人民解放軍副総参謀長は「中国は領土問題や海域の区分に関し、長年にわたり自らもめ事を起こしたことはない」などと反論している。

この反論には開いた口がふさがらないが、そうした中で、中国は着々とASEANの切り崩しを進めている。

中国の習近平・国家主席は5月30日、北京で、マレーシアのナジブ首相と会談。習氏が「事態の複雑化、国際化に賛成しない。中国が問題を起こすことはしないが、挑発には必要な対応をとる」とした。これに対し、ナジブ首相は「賛同する。関係国は(二国間の)直接の対話によって対立を処理すべきだ」と習氏に理解を示した(1日付朝日新聞)。

また、当事者であるベトナムのフン・クアン・タイン国防相は安全保障会議で、「中国と良好な関係を維持しなければならない」と批判のトーンを抑え、事態を打開するために中国との首脳会談を模索していることを明らかにした。その他、フィリピンやインドネシアなども、目立った中国批判をしていない。

ASEAN諸国にとって、命運がかかった重要な局面で、大きな声で中国を批判できないのは、日米という大国をいま一つ信用し切れないからだろう。勇ましい言葉で中国をけん制するものの、最近のアメリカの口先外交や、集団的自衛権ひとつで国が揺れている日本の現状を見れば、「日米は、本当にASEANを守ってくれるのか」という不安を抱いてもおかしくない。

南シナ海は日本にとっても重要であり、輸入100%に近い石油の大部分が、この海域を通過している。もし中国に支配されれば、石油のみならず、食品を含めたあらゆる物資の輸入が止まり、日本は干上がってしまう。それは、第二次大戦で経験した悪夢だ。もちろん、ASEAN諸国も同じ状況を迎えることになり、それが嫌であれば、中国の軍門に下るしか方法がなくなる。

日米は「力による現状変更は認めない」と主張しているが、すでに中国が「力による現状変更」を進めていることを考えれば、具体的な「力」を行使することも辞さないという決意を、明確にすべきだ。そのためにも、日本国内においては、集団的自衛権の行使容認を急ぐ必要がある。(格)

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