アベノミクスによって続いてきた景気回復が踊り場にさしかかりつつある。14日に政府が発表した7~9月期の実質国内総生産(GDP)の速報値は年率換算で1.9%増となり、前期に記録した年率3.8%増の半分に減速した。プラス成長は維持したものの、けん引役は政府の公共投資で、GDPの約6割を占める個人消費の伸びが鈍化しているほか、輸出はマイナスとなり、来年4月の消費税率引き上げ後の経済の行方に不安を残した。

15日付の英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は「アベノミクスは消費税増税後に本当の試練に直面する」と題した記事の中で次のように分析している。

「9月までの3カ月における日本経済について、最もシンプルに表現すると、こうなる。企業の生産量はまずまず増えたが、国内か海外かにかかわらず、日本政府を除いて誰もそれを買おうと関心を示さなかった」

安倍政権はこれまで、大規模な金融緩和や公共投資による景気刺激策ではある程度の成功を収めてきたが、経済政策の「第三の矢」と位置づける成長戦略の分野では、規制緩和などの思い切った政策を打ち出せずにきた。今回発表されたGDP速報値は、経済成長が公共事業頼みになっていることを明らかにしており、アベノミクスの"弱点"を浮き彫りにしたと言える。

15年来のデフレから脱却するために、政府による起爆剤がある程度は必要とはいえ、政府頼みの経済成長をいつまでも続けるのは不健全だ。安倍首相は「民間活力の爆発」と自ら銘打ったように、大胆な経済の自由化を進める必要がある。

12日付のFT紙社説は、安倍首相が労働市場や農業などの自由化を打ち出せていないことに触れた上で、次のように述べている。

「確かにこれらは最も強力な既得権益で守られてきた分野であり、安倍氏の自民党とも結びついてきた。だが、これらの改革は経済に最大限のリターンをもたらすものでもある。企業は、日本政府がギアを入れたと感じるだろう。そうすれば、賃上げも持続的なものになる」

2020年の東京五輪を成功させるためにも、中国の脅威に対応するための国防強化にしても、自由化を進めてハイペースの経済成長を維持することは、日本の運命に密接に関わっている。消費増税の悪影響を打ち消して余りある大胆なプランが、安倍首相に期待される。

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