「特定秘密保護法案」について、各紙で議論が紛糾している。今国会での成立が見込まれている「国家安全保障会議(日本版NSC)」の創設に合わせて、本法案を必要と見る向きもあるが、多くの新聞は「知る権利」「言論の自由」の侵害になるとの反発が強い。

8日の衆院特別会議では、自民党の橋本岳議員と官僚と以下のようなやり取りがあった。

橋本氏が、「海外派遣された自衛隊の宿営地の警備の情報は、特定秘密に当たるのか」「尖閣諸島に武力勢力が上陸し、戦闘に至った場合の状況は?」などの質問をしたところ、官僚からは「一般論では該当する可能性はあると考えられる」というあいまいな答えが繰り返された。いかようにも解釈できる答弁に橋元氏も不満をもったのか、「じゃあ全部(特定秘密)ですか、という気持ちになりかねない」と語った。

"身内"である自民党議員すらこんな調子であるなら、本法案の審議について橋本氏と同じような疑問を感じている国民は少なくないだろう。安倍首相は、特定秘密の具体例として「外国の工作機関が日本人の拉致を行う活動」についての情報などを挙げ、「情報漏洩に関する脅威が高まっている」と説明しているが、唐突感は否めず、国民から十分な理解を得られるものとは言い難い。

そのため、参院本会議でも、報道機関にガサ入れ(家宅捜索)は入るかどうかを尋ねる質問が出たり、新聞紙上でも、今の国家公務員法で定められた懲役1年から、急にアメリカ並みの10年に厳罰化されることに疑問を投げかける記事が掲載されるなど、法案の趣旨そのものよりも枝葉末節に目が向いている。

「この法案がなぜ必要なのか」について、安倍首相が明確に説明できなければ、この動揺は収まらない。

憲法9条改正を訴えてきた安倍首相は、日本が主権国家として国防軍を持ち、アメリカなどと連携してアジアの安全保障に貢献していくビジョンをもっているはずだ。

その前段階として、集団的自衛権の行使を実現させなければならないが、他国と連携するとなれば、その国々が安心して日本に情報共有できる環境を整える必要が出てくる。

日本は2007年、海上自衛官がイージス艦情報を漏洩させて、アメリカの信用を失墜させた前例がある。その信用回復のためにも、まず「特定秘密保護法」を実現させて、秘密保護について他の先進国と足並みをそろえたいのだろう。

そうであるならば、安倍首相はもう一段、正々堂々と、自分が描いている主権国家としての日本の未来ビジョンを国民に示すべきだ。そして、今回の法案で保護すべき情報について、しっかり例示する必要がある。

憲法改正を持ってくると、マスコミに批判されて支持率が下がると思っているのだろうが、今のような"本丸"を避けた説明では、逆に意味が分からず国民の不安を煽るだけだ。

国民の幸福に必要なのだという信念があるならば、小手先の政策議論で終わらせるのではなく、国家ビジョンを示すという政治家の役割をしっかり果たしてほしい。(雅)

※特定秘密保護法案とは、防衛、外交、テロリズム等、国家の安全保障にかかわる「特定秘密」を定め、公務員がその秘密を漏洩した場合、最高で10年の懲役刑を科すことを定めたもの。

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