中国・北京の天安門前で28日正午過ぎ、小型四輪駆動車が歩道に乗り上げて炎上。車に乗っていた3人を含む5人が死亡し、観光客など38人が負傷した。車の3人のうち、2人は新疆ウイグル自治区出身の男性と見られている。

現場となったのは、天安門と天安門広場の間を東西に走る大通りで、車は、高さ1メートルの柵で仕切られた天安門前の歩道に進入。多くの観光客やガードマンをはね飛ばしながら数百メートルを走り、毛沢東の肖像画が掲げられたすぐ近くの金水橋に突っ込んで、炎上した。

香港メディアは、車に乗っていた3人のうち、少なくとも2人がウイグル族だったと報じ、中国政府に不満を持つ人々の行動ではないかと伝えている。

事故直後、現場には多くの警察官が出動して厳戒態勢。メディアによる写真撮影などが禁じられ、中国国営中央テレビは、この事件について一切、報道しなかった。翌29日には、NHKの海外向けのニュースが、中国国内では映像と音声が約2分間にわたって中断され、画面が黒くなる「ブラック・アウト」状態に。厳しい情報統制を敷く一方で、現場が28日夜までにはきれいに片づけられ、29日朝から何事もなかったように、観光客に開放されたという。

だが天安門は、1949年に毛沢東が建国を宣言したり、89年には民主化を求める学生たちを人民解放軍の戦車がひき殺すなど、政治的に極めて敏感な場所である。また、第18期中央委員会第3回総会(3中総会)が行われる直前というタイミング。昨年11月に発足した習政権にとっては、まだ1年も経っていない時期での出来事に、大きな衝撃となっているはずだ。

中国では報道が規制・捏造されるため、断定的なことは言えないが、もしこれがウイグル族による犯行であれば、これはテロではなく、「決死の抗議行動」と呼んでもいいのではないか。

もちろん、今回の天安門で亡くなった方々やケガをされた多くの方々には、哀悼の意を表すとともに、一日も早い回復を祈りたい。そして、何よりも一般の罪のない人々を巻き込むことは許されない。だがそれとは別に、長年、ウイグル族の人々が中国政府から受けてきた様々な迫害や人権弾圧の過酷さを思えば、彼らにも一定の「義」があると見るべきではないか。

中国に侵略されたウイグルでは、長年、圧政や差別にさらされ続け、人々には極度な不満がたまっている。たとえば今年6月には、トルファン地区で、ウイグル族の武装グループが、地元警察の派出所などを襲い、警察官を殺害したが、実は、この事件の前の4月に、ウイグル族の男児が漢族の男に殺される事件が起きており、6月の出来事は、男児殺害への抗議活動で拘束されたウイグル人の解放を求めるものだった。

だが、中国当局はこれを鎮圧するために、軍のヘリを出動させ、上空から自動小銃で無差別に発砲し、多数の住民を殺害したという(弊誌2013年9月号 ジャーナリスト相馬勝氏の連載「中南海インサイド・ウォッチ」より)。

最近も、新疆ウイグル自治区カシュガル地区では、9月26日からの約1カ月間で、少なくともウイグル族15人が特殊警察部隊によって射殺され、約100人が逮捕されていたことが、米政府系のラジオ放送局によって明らかにされた。同じく侵略を受けたチベットでも、2009年以来、中国政府への抗議の焼身自殺が120人にものぼっている。

日本をはじめとする国際社会は、こうした現実から目をそらし続けることは許されない。今回の事件を機に、中国共産党政府の人権弾圧、一党独裁体制の誤りを糾弾すべきである。(格)

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2013年10月26日付本欄 ウイグル族15人射殺 香港の自由を求める戦いが中国に自由をもたらす

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2011年3月号 国が滅ぶ理由 「外交の鉄則」を固めよ 内モンゴル、ウイグル、チベットからの警告

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