宇宙の成り立ちを探るための実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の国内誘致について、日本学術会議の検討委員会が6日、誘致の是非は数年かけて検討すべきという見解をまとめた。約8300億円の建設費がネックになっているようだが、日本はこのチャンスをつかむべきだろう。

ILCは、素粒子研究に用いる実験施設で、全長約30kmの加速器。電子と陽電子をほぼ光速で衝突させることでビッグバンを再現し、宇宙や物質の起源を探る。国際的研究者グループ「リニアコライダー・コーポレーション(LCC)」が建設を企画し、誘致先を探しており、日米欧の数カ所の候補地が挙がっている。

素粒子物理学上の新発見も期待されるが、それに付随するプラス面も見逃せない。まず、建設に伴い、医療、生命科学、製品開発、情報通信、エネルギーの各分野のイノベーションにつながる。また、施設周辺には研究都市が生まれ、世界中から人材が集まってくる。国内の人材輩出にもつながる。産業の発展に寄与することは間違いない。これは日本の科学技術力のさらなる向上にとって大きなチャンスとみるべきではないか。

だが、同委員会は誘致に慎重な姿勢。大きな理由は、やはり「予算」で、東京大学教授の家泰弘委員長は「国の財政が厳しい中、基礎研究に巨額の予算をかける理解が得られるか」と懸念を示している。

日本政府の研究投資が少ないというのは、これまでもしばしば指摘されてきた。日本政府の「研究開発投資の対GDP比」も、「民間も合わせた研究費の政府負担」も、日本は欧米の主要国を下回る。「科学技術関係予算」の伸びも2000年代に入り鈍化。欧米、アジアの主要国が急速に投資を強化しはじめたのとは対照的だ。

資源の少ない日本は科学技術力を「強み」として繁栄してきた。素粒子物理学の分野では、湯川秀樹氏、朝永振一郎氏、小柴昌俊氏などノーベル賞受賞者を多数輩出し、2008年には南部陽一郎氏、益川敏英氏、小林誠氏が一部門3人までのノーベル物理学賞を総なめした。

予算を理由に基礎研究で遅れを取れば、その「強み」を失うかもしれない。人口や工場を増やして発展する余地の少ない先進国では、科学技術は大きな「富」の源泉である。日本政府は、成長に行き詰る今こそ、次世代加速器の誘致を進め、科学技術力を高める大胆な投資を行うべきだ。(光)

【関連記事】

2013年6月13日付本欄 日本は巨大実験装置ILC誘致を

http://the-liberty.com/article.php?item_id=6164

2013年2月9日付本欄 EUが科学研究予算を削減 日本は未来産業に投資せよ

http://the-liberty.com/article.php?item_id=5587