EU(欧州連合)理事会は8日、2014年から2020年の次期中期予算案を協議した結果、EU発足後初めて、前回の予算から削減することで合意した。なかでも、科学研究予算が大幅に削られていることを、8日付ネイチャー(電子版)が報じている。

大幅に削られたのは2011年にEUの行政執行機関である欧州委員会が提示した「Horizon 2020」という、研究とイノベーションに資金供与するためのプログラム予算だ。欧州委員会は当初776億ユーロ(約9.6兆円)の予算を要求していたが、欧州理事会ではこれが692億ユーロ(約8.6兆円)まで削減された。

ギリシャ危機以降、EU各国は緊縮財政を余儀なくされているため、EU全体でも予算削減はやむをえないところだろう。しかし、フィナンシャル・タイムズ紙は研究予算削減について「欧州はイノベーションの手段を破壊することで、自らの未来を損ねている」と批判した。科学研究費の削減は、会社で言えば先行投資としての技術開発費の削減であり、未来に価値を生む事業が進まなくなるからである。

一方、日本は大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」建設地として世界の研究者から有力視されている。ILCとは、電子と陽電子を衝突させることで発生する粒子を調べ、宇宙の成り立ちを探るための加速器だ。昨年見つかった「ヒッグス粒子」の詳しい性質を探ることや宇宙を満たす暗黒物質(ダークマター)の研究、さらには4次元を超える「余剰次元」の研究も行われる。また、ILCの開発を通して、想定を超えるイノベーションをもたらす技術が生まれる可能性もあるという。

ILCは国際協力で建設されるが、建設費8000億円の半分は立地国の負担となるため、これまで日本政府は静観していた。しかし今年1月、東北地方4県が「国際都市の形成で、経済効果や雇用が増え、新産業創出も期待される」と国に誘致を要望。数日後、下村博文文科相が「ぜひ日本に誘致したい」と関係国に協力を呼びかける考えを示し、国内誘致が本格的に動き出した。

アベノミクスでは経済成長を目指すというが、旧来型の公共事業が中心なのは物足りなさがある。幸福実現党は宇宙・航空産業などの未来産業へ100兆円規模で投資するプランを掲げているが、それは未来の日本の富の源泉になりうるからだ。日本政府は緊縮財政に走るEUを「反面教師」として、新産業を生み出す研究に思い切って投資すべきである。(晴)

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