スパイ活動の疑いのあった中国大使館に勤務していた外交官が、警視庁の出頭要請に応じず、一時帰国していたことがわかった。外交官の特権を定めたウィーン条約では、外交官が個人の利益のために赴任国で商活動を行うことを禁じている。しかし、この外交官は正式に大使館員になる前に取得した外国人登録証を用いて、中国進出を目指す日本企業に対する顧問料などを受け取っていたとされる。
人民解放軍の諜報機関出身のこの人物は、日本語や日本文化などに熟達していた。1999年からは松下政経塾にインターン生として在籍したこともあり、政財界でのコネクションを築いていたものと見られる。
表舞台で論じられることは少ないが、中国は世界最大の諜報工作部門を持つ国であり、各国でスパイ活動を行っている。ある専門家の推計によれば、全世界で200万人ほどが中国の諜報活動に何らかの形で関わっているとされ、日本でも少なくとも3万人の工作員が活動中との説もある。
中国のスパイが海外政府の中枢まで入り込んだ有名なケースでは、米CIAに通訳として勤めていた職員が85年までの30年間、中国側に機密情報を売却していた事件がある。中国のスパイ活動には正式なエージェントだけでなく、ビジネスマンなど広い範囲の人物が関わっている可能性があり、FBIはアメリカ国内で数千社が「前線企業」として中国の諜報活動に関与していると見ている。
中国はステルス戦闘機や核兵器の技術などをアメリカなどから盗み出し、自国の軍事開発に充てているとされるが、こうした情報取得以外に中国が力を入れているのが、海外の政治家などへの事実上の買収作戦である。賄賂やハニートラップ、中国に招いての接待などで、他国の政治家が中国政府への批判を控えるように仕向けるのが、その手口である。
作戦には秘密裏にスキャンダルを握って、相手国の政治家らに圧力をかける道具とすることも含まれる。中国専門家のリチャード・フィッシャー氏は、「中国は、自国の外交官やビジネスマンが政治や経済分野での仲間を増やして、他国の支配層エリートたちが中国共産党政府の正当性を決して批判できないようにするため、内部のスクープを彼らに提供しようとしている」と論じている(2011年9月19日付 ザ・ディプロマット)。
古代中国の軍事戦略の古典『孫子』は、諜報活動などを動員して戦わずして勝つことの重要性を強調しており、現代の中国政府の戦略にもこうした特徴を踏襲した部分が見られる。中国は米軍を西太平洋から追い出す海軍戦略を持っているが、それを成功させるには、中国が太平洋に出る際の通り道に当たる日本を、アメリカではなく中国寄りの国にする、あわよくば属国化する必要が出てくるのは不思議な話ではない。諜報活動は水面下で行われるが、中国の諜報活動が日本の世論や政府をいつの間にか転覆してしまうことがないように、一定の危機意識を持っておく必要があるだろう。
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