日本銀行が27日の金融政策決定会合で、追加の金融緩和を打ち出したが、見事な空振りに終わった上、朝日新聞が的外れな批判を加えている。

日銀は2月に「事実上のインフレ目標」と言われる金融緩和策を発表し、物価上昇率1%をめどにするとして、10兆円の資金供給などを行った。

今回の5兆円の追加緩和は、この1%の物価上昇を目指すための措置だが、その日の株価は下がり、為替も円高に向かってしまった。市場は、日銀の緩和策に「不十分」だと見なしたわけだ。見事な"空振り"だったと言える。

本当に1%の物価上昇を目指すのであれば、小出しに金融緩和するのではなく、もっと大胆に迅速に緩和すべきであっただろう。

しかし、朝日新聞は29日付社説で、追加緩和自体を批判している。政治の圧力に屈して緩和を余儀なくされ、このままだと「投機的な思惑がエスカレートする」と言う。

おそらく、金融緩和などをしたらバブルが発生すると言いたいのだろう。

しかし、このデフレ不況の真っ只中に、5兆円程度の金融緩和でバブルを懸念するというのは、取り越し苦労にもほどがある。

同紙は28日にも、金融引き締めの遅れによってバブルが生じたとして80年代の政策を振り返っている。

さらに戦前の高橋是清蔵相の政策批判まで飛び出している。しかも、高橋財政批判については、事実誤認だらけのピントのずれた記事になっている。この手の間違いは、金融緩和批判論者の常套手段ともなっているので、この機会に簡単に正しておきたい。

同紙はこう書いている。

「1932年、当時の高橋是清蔵相は昭和恐慌から抜け出すため、日銀の国債引き受けを容認。その後、軍事予算の膨張が止まらなくなり、戦後で国債は紙くずに。戦後の超インフレに庶民は苦しんだ」

これを読めば、高橋蔵相の政策によって、軍事予算が膨張し、戦後の超インフレが生じた、と読める。

しかし、高橋蔵相は、日銀の国債引き受けを行なったのは事実だが、その後、軍事予算の「縮小」を図り、それが原因で軍部に恨まれて、1936年の2.26事件で暗殺されているのである。

軍事予算の膨張を抑えて殺された人物に対して、軍事予算の膨張をもたらしたかのように書き、亡くなってから10年も経ってからのインフレの責任をかぶせるのは、事実の歪曲を通り越して、ほとんど妄想レベルのフィクションになってしまっている。

単純に勉強不足なのか、何かの悪意に基づいて書いているのかは分からないが、これでは稀代の名蔵相であった高橋是清翁も浮かばれない。

「インフレ=バブル=悪」といった硬直化した方程式が記者の頭にあるのかもしれないが、不況においてこの考え方は危険だ。健全な経済成長としてのインフレはむしろ善である。この考え方を常識化させない限り、本格的な景気回復が期待できないとしたら、日本経済の未来はまだ厳しいと言わざるを得ない。(村)

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2012年4月27日付本欄 日銀が追加緩和 元日銀委員・中原氏の提言を生かさぬ「目くらまし政策」

http://www.the-liberty.com/article.php?item_id=4212