オバマ政権になってから、アメリカの国力が急速に衰えてきていることは、様々な報道や書籍で触れている。その中でも切れ味鋭く論評しているのが、日高義樹氏の新著『帝国の終焉』だ。

分けても重要な指摘は、アメリカの原子力空母「ジョージ・ワシントン」が2016年に退役すると決まったことだ。ジョージ・ワシントンは、横須賀を母港とし、日本の防衛上、重要な役割を担ってきた。退役すれば、別の空母が来るという見方もあるが、アメリカの財政状態から見ると、そう簡単にいくものではないと日高氏は指摘する。

アメリカの財政状態はかなり深刻で、防衛費の削減圧力によって、世界の海上路の安全を担ってきたアメリカ海軍は世界の海から消える可能性があるという。著者の結論はこうだ。

「アメリカ海軍が戦力を縮小し、空母機動艦隊をアメリカ本土に引き揚げることになると、日本およびその周辺は完全に中国のものになってしまう」

また、ワシントンの消息筋によれば、「2012年から13年にかけて起きると懸念される最も危険な戦いは、中国による台湾攻撃である」という。中国の軍部に近い習近平が胡錦濤の後を継げば、軍主導型の何かが起きる可能性があるとの分析だ。

アメリカの衰退と、それに伴う日本の防衛の弱体化について、我々の危機意識はあまりにも薄い。最近の普天間基地をめぐる議論も的外れだ。消費税も問題だが、中国と北朝鮮、そしてイランを含めた国際情勢分析と、有事に対応するための防衛強化の議論が早急に求められる。しかし日本の報道からはその切迫感はまったく伝わってこない。本書を読むと、日本のマスコミの能天気ぶりが浮き彫りになる。(村)