2005年5月号記事

人生煌めきの瞬間 45

「アダルト・チルドレン」との決別──虐待の恨みを乗り越えて

貧しさのなか両親の愛を得られず育ったあげく兄から受け続けた虐待の数々── 長年の想像を絶する苦しみから立ち直った一人の女性の、壮絶な魂の記録。

高井 恵美(仮名、38歳)

ハンカチひとつとっても使い古しのガーゼだし、給食袋は親せきのおさがり。駄菓子も買ってもらえない。私もお友達みたいに、新しいお洋服を着たいな──。

それが実現しない夢なんだと分かったのは、小学生になってからでした。

父は私が保育園に上がる前後から、うつが高じて精神病院に入院していました。残された4人の家族は、生活保護と母の内職で細々と生計を立てていたのです。

母が一時外泊で帰宅した父を「世間体が悪いじゃない」となじり、親せきに愚痴るのを聞いて育った私は、

(あんたが健康でまともに仕事してくれたら、こんなにみじめな生活しなくて済んだのに)と、いつも父を恨んでいました。

でも生活が貧しいだけなら、私は人間不信にはならなかった。私の人生に大きな影を落としたのは、母に愛されない苦しみと、4つ年上の兄から受けた度重なる虐待への恐怖だったのです。