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《本記事のポイント》
- 統計的確率で判断することの危険性
- プライバシーが剥奪されたAI全体主義の怖さ
- 人間とAIの決定的違いとしての「心の価値」
人工知能(AI)が司法を担う近未来を舞台に、身に覚えのない罪で裁かれた男が、限られた時間の中で無実を証明しようと奮闘する姿を描いたリアルタイム・アクションスリラーである。
凶悪犯罪が増加する近未来。敏腕刑事のレイヴンは、バディを組んでいた同僚警官が捜査中に殉職し、犯人が裁判によって無罪放免となったという苦い過去から、AIによる厳格な裁判制度の制定を提唱し、AI裁判所である「マーシー裁判所」が設立された。
しかしある日、レイヴンが目を覚ますと、妻殺しの容疑で自らがマーシー裁判所に拘束されていた。レイヴンは冤罪を主張するが、事件前の記憶は断片的だった。無実を証明するには、AIが支配する世界中のデータベースから証拠を集め、AI裁判官が算出する「有罪率」を規定値まで下げなくてはならない。それがかなわなければ即処刑という状況の中、レイヴンは残された90分で真実にたどり着こうと奔走する。
主人公レイヴン役をクリス・プラットが務め、AI裁判官のマドックスを『ミッション:インポッシブル』シリーズのレベッカ・ファーガソンが演じる。監督は、『search サーチ』のプロデューサーとしても知られるティムール・ベクマンベトフ。プロデューサーに『オッペンハイマー』『ダークナイト』のチャールズ・ローベン。
統計的確率で判断することの危険性
この映画の面白さは、AI裁判官が算出する有罪率が規定値に達すると即処刑されるという、統計データ万能主義の社会が描かれている点だ。
ロサンゼルス市警の刑事であるレイヴンは、妻のニコールを殺害した容疑で起訴されている。彼が、ほぼ24時間体制で記録された自身の映像の中から疑いを覆す糸口を見つけようと奮闘するなか、AI裁判官であるマドックスは彼が主張するアリバイが事件にとって有益か有害かを判断していく。
裁判の冒頭で、マドックスは彼の有罪確率が約97.5%であると述べる。80%を超えるとAI裁判の正当性が認められ、92%を超えると自動的に有罪となり、92%を超えるものはすべて、"合理的な疑いの余地がない"と見なされるのである。
レイヴンは死刑にされないギリギリ92パーセントまで有罪確率を下げる必要がある。だが有罪確率は98パーセントに近づき、処刑される可能性が高まっていくのだ。
現代生活では、受験の合格率に始まり、病気になった際の生存率など、人生の大きな選択に立たされたときに、統計的確率に頼ることが多いのは事実だ。だが、この映画が訴えかけているのは、そうしたもっともらしい統計の裏に隠された"いかがわしさ"であり、人間の運命を統計的に判定しようとすることの危険性である。
その一方で、現状は、なし崩し的に犯罪捜査などにAIが導入されつつある。オバマ政権で国際技術外交の顧問を務めた経歴を持ち、映画の制作陣にAIの倫理について助言を行ったベンジャミン・ブードロー氏は次のように指摘する。
「司法を改善するために、また犯罪を予測し、有罪かどうかを判断し、社会への脅威やリスクを評価するためにAIやデータ分析ツールに期待するという考え方は、現在、全米の警察署で活発に実践されています。人間は間違いを犯しやすく、偏見を持っていることも確かです。だからこそ、AIツールを利用することで、そうした人間特有の矛盾を減らし、よりデータに基づいた意思決定ができるようになる、という期待、あるいは提案がなされているのです」(映画パンフレットより)
映画に描かれたAI裁判官万能主義は、もはや未来の空想ではないのだ。
プライバシーが剥奪されたAI全体主義の怖さ
もう一つ、この映画が問題視しているのは、AIが警察や司法、裁判に導入された際に、人間のプライバシーがあらゆる面で侵害され、丸裸にされてしまうという危険性である。
AI裁判官のマドックスは、レイヴンの無実の主張に反論するため、警察のボディカメラ、ドアベルカメラ、携帯電話の画像、ソーシャルメディアのアカウント、公共の監視カメラといった証拠を次々と提示する。レイヴンのあらゆる行動はクラウドに保存されており、凶悪化する社会で容疑者を処理するためにAIへの依存を強めた法制度によってアクセス可能となっているのだ。
しかし、その使われ方は、容疑者を犯罪者に仕立て上げるためのバイアス(偏見)がかかったものである。AIと監視カメラが融合した監視社会の力によって、レイヴンは妻の浮気の事実を突きつけられ、あるはずもない自分の殺意を立証されてしまうのである。
こうした監視社会の闇について、大川隆法・幸福の科学総裁は著書『メシアの法』で次のように指摘している。
「時代が二十一世紀になって変わってきたと思われるものの一つに、『AI全体主義』といわれるようなものが出てきているということがあります。
AIが、もうものすごい量の情報を駆使して判断をしてくれるようになっています。中国だったら、『監視カメラが、今、国民二人に一台ある』と述べましたが、それ以外にドローンが飛んでいます。
例えば、マスクをしていない人とかだったら、ドローンで顔を認識されます。ドローンに写真を撮られたら、それで逮捕がそのあとに来るわけです。そして、どこかの収容所に連れていかれたら、家族もその人がどうなったかは分かりません。こんなことが起きるわけです。これは、一定のレベルを超えている可能性が高いと思います。人権侵害になる可能性は高いでしょう」
人間とAIの決定的違いとしての「心の価値」
自らの有罪が刻一刻と確定しつつあるなか、レイヴンは残されたわずかな時間を意味あるものにするべく、事件の真相に迫っていく。ベテラン刑事としての職業的倫理と直感を振り絞って、自らの運命に立ち向かう姿が象徴するのは、人間の心の力の偉大さである。
自らもその設立を後押ししたAI裁判が、果たして、人間にとって有益なものなのかどうか、その真実を明らかにしたいという情熱が、レイヴンに力を与え、AIをも上回る、人間の心が持つ真実の力を顕現させるのである。
人間の心が持つ価値が無限大であることについて、大川総裁は次のように語っている。
「『心のなかの宝物』は誰もが持っているのです。
石油や石炭、鉄鉱石、金、銀、ダイヤモンドが、地中深く眠っているように、一人ひとりの心のなかに『無限の価値』が眠っています。
この無限の価値は、必ずしも外に現れて、無限の成功として形あるものとなるわけではありませんが、心のなかにおいて、それを見つめ、味わうかぎりにおいて、無限の成功を人間に与えてくれるものです」(『不滅なるものへの挑戦』より)
社会の無事平穏のために良かれと思って導入されたAI裁判官が、監視と恐怖にがんじがらめにされた社会を生み出していく姿を描いたこの映画は、間違いや欠点だらけの人間こそが、逆説的に、より良き社会への原動力であること示していると言えるだろう。
『MERCY マーシー AI裁判』
- 【公開日】
- 全国公開中
- 【スタッフ】
- 監督:ティムール・ベクマンベトフ
- 【キャスト】
- 出演:クリス・プラットほか
- 【配給等】
- 配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式サイト https://ai-saiban.jp/
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