「雨ニモマケズ」の詩で知られる宮沢賢治(1896~1933年)は、現代の青春映画の名手として知られる三木孝弘監督として生まれ変わっていることを、本誌11月号「宮沢賢治の生まれ変わりは『あの映画監督』だった」で紹介した。
本欄では2回にわたって、三木監督の作品を手がかりにして、本誌とは異なる視点から宮沢賢治の人物像に迫ってみたい。今回は、その前編。
映画「知らないカノジョ」──異世界で起きた、夫と妻の立場逆転
三木監督がメガホンを取った、2025年2月公開の映画「知らないカノジョ」。あるベストセラー作家の青年が異世界体験をする物語だが、冒頭はこのように展開する。
授業中に小説を書いていたところ、教授にノートを取り上げられた大学生・神林リク。夜の校舎に忍び込み、ノートを取り返したものの、警備員に追い回され、講堂に逃げ込む。そこには、隠れてギターと歌の練習をしていた女学生・前園ミナミがいた。リクは一目惚れするも、再び警備員に見つかり、2人は一緒に逃げ、途中でノートを失くしてしまう。翌日、ミナミがそのノートを届けてくれたことがきっかけで2人は交際を始め、その後、結婚する。
8年後、リクのSF小説はベストセラーとなったが、彼を支えるために歌手になる夢を諦めたミナミとの関係は悪化していた。そして、ある朝、自宅でリクが目を覚ますと、ミナミの姿はない。そこは、ミナミが人気歌手になっている異世界だった──。
元の世界では、処女作の小説をほめられたリクは自信を持ち、小説家の道を歩んでいくが、「異世界」では、小説を機に訪れたリクとミナミは出会いはない。小説が人々に読まれることはなく、リクはアイデアを温めたまま出版社の一社員として働いている。
一方で、異世界のミナミは、自作の歌を公表し、音楽会社からプロデュースしてもらうことで大成功している。その姿を見たリクは、元の世界で経験した、自身の成功を支えてくれた伴侶がどれほどありがたい存在であったのかに気づく。
「よき理解者」への「感謝」と、他人を理解する「愛」
元の世界では、リクが異世界に移行する前日の夜、妻のミナミと喧嘩をしていた。処女作をほめてくれたミナミと結婚したリクだったが、成功するにつれて冷たくなり、傲慢な言動を繰り返すようになっていた。























