相撲は神事である──。
スポーツや格闘技というカテゴリーに括られがちだが、そうしたものとは一線を画する。
本誌2025年12月号「『天御祖神の武士道』を体現した三人の力士」では、相撲の起源や、相撲に流れる武士道精神について探究した。
本欄では、本誌で紹介しきれなかった、「千代の富士」(1955~2016年)の、相撲の神聖な起源を思い起こさせるエピソードに焦点を当てる。
「強くなければ、優しくなれない。なぜ優しいかっていうと……」
現役時代、最盛期に無双を誇った横綱・千代の富士は、2016年7月31日に61歳で亡くなったが、その2日後、大川隆法・幸福の科学総裁のもとに霊として現われ、勝負に臨む心構えや自己鍛錬の指針を明かし、「強さ」と「優しさ」の関係について次のように語った。
「男は強くなければね、優しくなれないんだよ」「なぜ優しいかっていうことだけど、それだけ自分に『自信』があるし、他の者をいたわるだけの余力が心にあるんだよな」
この「強さ」と「優しさ」について、生前の千代の富士に、象徴的な逸話がある。
1991年5月に引退し、九重部屋の親方を継いだ千代の富士の下に、翌年の10月、大分県でケンカ無双を誇る16歳の少年が弟子入りに来る。
その少年は11歳の頃に体重は約100kg。3歳の頃から柔道を続けたこともあって、ケンカでは向かうところ敵なし。中学時代から空手も習い、ヤクザからも一目置かれる存在となり、卒業後にとびの仕事をしていた。
母は、男なら自分の行いに責任を持つべきだと信じ、息子が補導されても翌日にならない限り迎えに行かない方針を貫き、粘り強く更生を期待していた。だが、今のままでは息子の将来が見えないと思ったのか、ある日、家に帰ってきた息子に相撲部屋への弟子入りを勧めた。
息子が「SPになりたい」という夢を語ると、母親は突然、台所から包丁を持ち出して息子の首につきつけ、「いままで一生懸命育ててきたつもりだけど、そんなことを言うなら、この場でお前を殺して私も死ぬ」と叫んだ。
警察署の柔道師範をしていた夫に先立たれて11年が経ち、女手一つで育ててきた母の積もり積もった想いが爆発したのだ。























