国際政治学者
佐久間 拓真
(ペンネーム)
国際政治の中でも特に米中関係、インド太平洋の安全保障、中国情勢を専門にし、この分野で講演や執筆活動、現地調査などを行う。
「チャイナリスク」といえば、サプライチェーンや経済的依存、あるいは台湾海峡の緊張といった、アジア近隣の巨大な脅威を想像しがちである。しかし、その死角とも言うべき場所で、中国の影響力は静かに、かつ着実に拡大しており、それが国際安全保障の新たな火種となりつつある。
国会議事堂、首相官邸、大統領官邸……多額の資金援助で「負債の罠」へ
その最たる例が、南太平洋の島嶼国、バヌアツ共和国を巡る動向である。オーストラリアやニュージーランドの北東に位置するこの小さな島国は、一見すると世界の中心的なニュースとは無縁に見える。しかし、中国の太平洋での海洋軍事戦略における潜在的な拠点として、バヌアツは重要な位置となる。
中国は、インフラ整備を柱とした大規模な経済援助を通じて、バヌアツへの影響力を深めてきた。例えば、国会議事堂、首相官邸、そして大統領官邸といった政府の主要施設の建設に、中国は多額の資金援助を提供している。これは、バヌアツのような小規模な経済にとって、短期的なインフラ整備の恩恵をもたらす一方で、深刻な「負債の罠」のリスクを伴う。
多くの援助が借款の形で提供されるため、バヌアツは巨額の対中債務を抱えることとなる。返済が滞れば、中国がインフラ資産の管理権を要求する可能性が高まる。例えば、中国が建設を支援した港湾施設などが、事実上の中国の管理下に置かれれば、それは単なる経済的な問題では済まされない。これは、中国海軍の活動を容易にするための戦略的な足がかりとなり得る。






















