全国公開中

《本記事のポイント》

  • 人生のやり直しはどこからでもできる
  • 負け犬根性に染まった組織の立て直し
  • 潔く生きることの素晴らしさ

かつて天才レーサーと言われたソニー(ブラッド・ピット)は、若き日にレース中の事故により大怪我を負い、F1の世界から姿を消し、現在は雇われレーサーとして賞金稼ぎに明け暮れていた。

そんな彼のもとに、最下位に沈む新興F1チーム「エイペックス」の代表であり、かつてのチームメイトでもあるルーベン(ハビエル・バルデム)が現れる。ルーベンからF1復帰の誘いを受け、ソニーは50歳を過ぎた"オールド・ルーキー"として現役復帰を果たす。

新たに加入したソニーの常識破りな振る舞いに、チームメイトである新人ドライバーのジョシュア(ダムソン・イドリス)やチームメンバーは困惑し、たびたび衝突を繰り返すが、次第に、老獪かつ熟練したソニーの戦略眼と実力に導かれ始める。一丸となったソニーたちは、並み居る強敵を相手に、命懸けで頂点を目指していく。

『トップガン マーヴェリック』を手がけた監督のジョセフ・コシンスキー、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマー、脚本のアーレン・クルーガーらが集い、グランプリ開催中の本物のサーキットコースを使って撮影を敢行。主演のブラッド・ピットが約2年間のトレーニングを経て、実際のF1レーシングカーに乗り込み、時速300キロの走行を行ったことでも話題に。

どこからでもできる「人生の再スタート」

この映画の面白みは、既に中高年の域に達した主人公ソニーが、世界の選りすぐりタレントがしのぎを削る最高峰レースF1に現役復帰するという、奇想天外な「人生の再スタート」にある。

若き天才レーサーと言われながらF1レース中の事故で人生の挫折を余儀なくされたソニー。それだけにF1にかける思いには格別のものがあった。ニューヨークでタクシーのドライバーをするまで落ちぶれながらも、徐々にレベルを上げて、ついにはデイトナの24時間耐久レースで優勝するまでに這い上がってきたのだ。

そして、かつて父に教えられたレースの醍醐味と、夢とロマンを実現するべく、ソニーは常識破りの挑戦に自らを投じていく。

大川隆法・幸福の科学総裁は著書『未来の法』の中で、人生の底にある時こそ、再スタートを切るべきだとして、次のように語っている。

『自分には、つくづく才能も運もないな』と思ったら、そこが再スタート点です。『才能もなく、運もなく、幸福の女神が微笑んでいない』と感じられるとき、それが、再スタートを切るべきときなのです。

『人生の底』にあるときには、どうか強くあってください。『ここから何ができるか』ということが大事です

しぶとく粘り抜きながら、ついに運命の女神の前髪をつかんだソニーの生き様は、中高年のオヤジたちへの人生讃歌そのものである。

負け犬根性に染まった組織の立て直し

また、この映画は、負けが立て込み、勝利への情熱や執念を失い、"負け犬根性"が染み付いてしまった組織の再建ドラマにもなっている。

ソニーは長年の過酷なレース体験で身に付けた、駆け引きや反則スレスレの裏技を使って、チームに初めてのポイントをもたらす。

常識に縛られ、勝てないことの弁解や言い訳を上手に述べることに頭を使っていたチームは、徐々に勝つことへの貪欲さをソニーから学び始める。

そして、ソニーは、チーム・スポーツとしてのF1レースがある種の集団格闘技であり、一人一人が勝つことへ向かって全身全霊の闘志を持つべきこと、自分に与えられた役割を情熱と使命感を持って取り組むべきことをチームメンバーに学ばせ、着実に実力を向上させていことの喜びを味わわせるのだ。

大川隆法総裁は、「負け犬根性」について、「実際に受けた傷以上に、心の傷が深く、痛みが長引く」とした上で、

人生には全勝も全敗もないのだ。必ず何勝何敗かになる。

心の中に、負け犬のいれずみを彫るのは、

よした方がよい。

棺桶のふたが閉じられる時に、

勝敗を数えても遅くはないのだ」(『心の指針(6)』)

としている。

人生の浮沈を数多く経験し、自暴自棄になることの愚かさを自ら経験したソニーを、自らもアルコール依存症に苦しんだブラッド・ピットが熱演している。

潔く生きることの素晴らしさ

最後に、ソニーはF1最終戦で、同僚の新人ドライバー、ジョシュアを優勝させることに全身全霊をかける。しかしジョシュアは土壇場でライバルチームと接触し、ともにスピンアウトしてしまい、意に反してソニーが初優勝を飾る。

オールド・ルーキーとして好成績を挙げ、チームの市場価値を劇的に高めたソニーだが、あっさりと元の雇われレーサーへと戻っていく。ソニーにとって、真剣勝負のレース中に不意に訪れる、えも言われぬ恍惚感こそが、自らを過酷な挑戦に駆り立てていたものの正体だったのだ。

自らの心の充実感を大切にし、引き際の美学をわきまえたソニーの生き様には、剣禅一如の武士道精神が持つ潔さすら感じられる。

大川総裁は、さわやかな人間になるための条件の一つとして潔さを挙げ、永遠の生命を悟っていることとの関連性について、次のように語っている。

『無限にやり直しがきく』ということも、さわやかに潔く生きることにつながります。

『一回きりの人生であって、取り返しがつかない』と思えば、じた ばたと見苦しい生き方をするかもしれませんが、もう一回、さらには、二回、 三回、四回、五回、六回……と、やり直すチャンスは何度もあるのです。

世間には、転生輪廻を単なる苦痛としてのみ考える見方もありますが、『これほど失敗ばかりしているのに、魂を消滅させられることなく生かしておいてもらっている。ありがたいことだ』と達観することも大事です」(『感化力』)

引退間際の中高年レーサーが、世界が注目する檜舞台で大勝利を上げながら、あっさりとスポットライトから去っていく──。その武士道的とも言える潔さを描いたこの映画は、最後の最後まで、ただ前だけを向いて全力疾走し続けることの中にある、ある種の神秘的な鋭い歓喜の感覚を、改めて思い出させてくれる。

 

『F1/エフワン』

【公開日】
全国公開中
【スタッフ】
監督:ジョセフ・コシンスキー
【キャスト】
出演:ブラッド・ピット ほか
【配給等】
配給:ワーナー・ブラザース映画
【その他】
2025年製作 | 155分 | アメリカ

公式サイト https://wwws.warnerbros.co.jp/f1-movie/

【関連書籍】

いずれも 大川隆法著 幸福の科学出版