米ジャーナリストのアビゲイル・シュライアー氏の著書『Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters』(2020年6月にアメリカで出版)を翻訳した『トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』が、産経新聞出版から3日に発売された。
翻訳本の出版をめぐり、取り扱う書店や産経新聞出版に対して、「原著の内容はトランスジェンダー当事者に対する差別を扇動する」「発売日に抗議活動として大型書店に放火する」などと脅迫するメールが送られてきた。一部の書店では、販売自粛の動きも出ている。
産経新聞は社説で「憲法第21条は『集会、結社及(およ)び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する』と明記している。書店や出版社に対して暴力をちらつかせて言論を封じようとする脅迫は、趣旨の方向性にかかわらず、国民が享受する自由、民主主義に挑戦する暴挙だ。産経新聞社と産経新聞出版はこのような脅迫に屈しない。最大限の言葉で非難する」とした(3日付)。
脅しに屈することなく、予定通り刊行した産経新聞出版の毅然たる姿勢に、敬意を表したい。
元々翻訳本は、大手出版社の「KADOKAWA」から『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』という邦題で昨年末に発行予定だったが、批判や抗議集会の予告を受けて、発行が中止になっていた(関連記事参照)。
このとき抗議の中核となった出版関係者有志の代表者は、よはく舎の小林えみ代表である。
エコノミスト誌とタイムズ紙(ロンドン)の年間ベストブックにも選ばれ、すでにフランス語、ドイツ語、スペイン語などにも翻訳されている良書の翻訳本を日本で刊行し、内容について議論を深めることの意義は、極めて大きい。
トランスジェンダーだと思い込まされる少女たちの悲劇
著者のシュライアー氏は、オックスフォード大学で哲学士学、コロンビア大学で文学士学、イェール大学法科大学院で法務博士の学位を取得(2009年までは弁護士資格も持っていた)。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙やニューヨーク・ポスト紙、ニューズウィーク誌などで幅広く執筆活動を行い、2021年にバーバラ・オルソン賞(ジャーナリズムの優秀性と独立性に贈られる)を受賞した、優れた独立系ジャーナリストだ。そして子を持つ親でもある。
同氏は、多くの少女たちが、幼少期は性別違和の兆候が見られなかったにもかかわらず、思春期に「トランスジェンダーの大流行」に巻き込まれて、突如トランスジェンダーを自認するようになり、ホルモン投与や肉体を損なう手術に追い込まれ、苦しみ、後悔している実態を、当人や親、医師や研究者、教師、セラピストなど200人近く、50家族への丁寧な取材を通して明らかにしている。
10代の少女たちの間でのトランスジェンダー旋風は、インターネットの動画(SNS)に端を発しているという。SNSを通して、少女たちは過激なジェンダー思想に傾倒。それを後押しするのが、同世代の仲間やインターネット上の著名人、教師、セラピストたちだ。
つまり、本当は「トランスジェンダーではない」少女たちが、SNSや学校、精神科病院などに煽られて、自分はトランスジェンダーだと思い込み、後戻りができなくなるという悲劇が多発しているのだ。シュライアー氏はこれを「社会的伝染」だと指摘し、「これが社会的伝染なら、きっと社会がそれを食い止められる」と考えている。
なお、シュライアー氏は本書の最後に、敬愛する友人に「(あなたが本を書くことで)トランスジェンダーの人を苦しめることになる」と問い詰められ、そう考えると耐えられなかったと記している。しかし「絶望に追いこまれて、きわめて危うい状態」にある10代の少女たちが気がかりで仕方がなかったとし、「人生で大切なもののためには戦う価値がある」とも述べている。
こうした指摘からも分かるように、本書は正当かつ誠実な内容で、少女たちへの思いやりに溢れている。日本の子供たちの未来を考える上でも、一読をお勧めしたい。
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