アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
先日の李克強・前中国首相の急死が引き金となり、その葬礼に対する習主席への対応(遺体解剖もせず、すぐに荼毘(だび)に付した)が、元老たちや「紅二代」(中国革命を成功に導いた指導者たちの2世)の不満を買っている(*1)。
習主席と彼らの内紛は日増しにエスカレートし、公然化しているという。これまで蓄積されてきたすべての対立が噴火の時を迎えようとしているのかもしれない。そのため今後、ささいな火種でも、大事件のきっかけになるかもしれないと噂されている。
李克強告別式を"ボイコット"し、地方幹部の告別式にあえて出る長老たち
その不満を伺わせる例として、11月8日に行われた、元貴州省人民代表大会常務委員会主任の張玉環の告別式がある(*2)。官製メディアの報道によると、政治局常務委員の蔡奇、天津市トップの陳敏爾らが哀悼の意を表したという。そして注目すべきは、胡錦濤、温家宝、王岐山、張徳江、李嵐清ら党長老たちの名前が公式報道に登場した点である。
張玉環の地位はさほど高くなく、元老たちが告別式に参列するというのは異例である。これは彼らの意志表示だろう。
というのも11月2日、李克強の告別式で、長老たちは一斉に欠席した。唯一、胡錦濤だけが花輪を贈って哀惜の念を表したと官製メディアは伝えたが(*3)、他の長老たちの名前は一切報道されていない。李克強の"変死"や、その後の習政権の対応にも不服があったため、元老たちはあえて李克強の葬儀への参列を見送ったと見られる(*1)。
そしてそれとは対照的な態度を取り、自分たちの立場を明確にするため、張玉環の葬儀報道に元老たちの名前が登場したのだろう。張は"自然死"だった。
こうした不服の態度から浮かび上がるのは、李克強の死で、元老たち全員が危険に晒されている実情があるのではないか。「それならば、先に習主席を倒した方がマシ」という意志さえ、感じなくもない。