3月30日の夕方(米現地時間)、米ニューヨーク州の大陪審によって、トランプ前大統領が起訴されたという速報が流れてから、他のあらゆるニュースは吹き飛ばされ、2020年の大統領選挙時以来の大騒ぎとなった。

起訴内容は、罪状認否まで封印されるため、詳細は明かされていないが、2016年の大統領選の前に、アダルト映画女優への不倫口止め料を不正に処理したとされる疑惑の件が含まれていると見られている。

6年以上も前のケース(案件)をよみがえらせて、起訴にまでこぎつけたため、リベラル系メディアにすら「ゾンビ・ケース」と呼ばれている。

4月2日時点の報道によると、4月4日午後(米現地時間)にニューヨーク市内の犯罪裁判所で、トランプ氏の指紋採取や顔写真撮影、罪状認否手続きが行われる予定。ABCテレビは、罪状は計二十数件に及び、重罪も含まれるという見方も報じた。トランプ氏は4日の夜に、私邸マール・ア・ラーゴに戻って、会見を開くと発表している。

CNNなどを含めた多くのメディアは、検察側に対して、起訴内容(罪名)を明らかにするよう、また、トランプ氏が裁判所で行う罪状認否手続きの報道を許可するよう要請している。

トランプ氏はすでに、2024年の大統領選挙への出馬を表明しているが、たとえ起訴されて有罪になったとしても、大統領選への出馬自体は合衆国憲法の規定上可能となっている。

しかし通常は、起訴後、1年程度で、裁判が始まることが多いため、2024年の大統領選前の最も重要な時期に、トランプ氏の選挙活動の足かせとなることが予想される。

一方、トランプ氏起訴の報道がなされてから、トランプ支持者や共和党議員などの間では、非常に激しい怒りの声が飛び交い、収拾がつかない状態に陥った。

連邦大陪審ではなくニューヨーク州の大陪審であるため、選挙資金規正法違反(連邦法)などではなく、微罪と予想され、6年以上前のゾンビ案件について、このタイミングで狙い撃ちする形で起訴したことに対して、保守系の怒りは収まらない。

3月29日時点で、ロイター等の大手メディアは、トランプ氏起訴をめぐる大陪審の審議について、4月9日のイースター(「復活祭」)以降、あるいは、4月下旬以降に延期されたと報道していたため、その翌日の大番狂わせの起訴には、保守もリベラルも衝撃を受けた模様だ。

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トランプ氏が起訴決定後に出した声明文

トランプ氏は起訴決定を受けて、力強い声明文を発表(右画像)。冒頭で「史上最高レベルの政治的な迫害であり、選挙干渉だ」と反発。そして、「民主党は、米大統領経験者であり、大統領選の共和党最有力候補でもある政敵を罰するため、司法制度を武器として使っているが、こんなことは前代未聞だ」「魔女狩りをしたことで、ジョー・バイデンは大きなしっぺ返しを食らうと信じている」「アメリカを再び偉大な国にするために、ゆがんだ民主党員を一人残らず追い出す」などと主張した。

保守系議員も、ケビン・マッカーシー下院議長などの共和党トップを筆頭に、激しく批判している。

2024年大統領選に向けた共和党の候補者指名争いでトランプ氏のライバルに当たるマイク・ペンス前副大統領やニッキー・ヘイリー元国連大使、マイク・ポンペオ前国務長官、フロリダ州知事のロン・デサンティス氏などもみな検察を非難し、トランプ擁護側に回った。

またトランプ氏に近い下院司法委員会のジョーダン委員長ら有力議員3人は、「政敵を倒すための公民権乱用だ」と見なし、連名書簡で、捜査を指揮するニューヨーク州検察マンハッタン地区トップのアルビン・ブラッグ検事(民主党員)に議会での証言を要求するなど、対決姿勢を鮮明にしている。

トランプ氏や支持者らの主張の要点は、(1)政治的に偏向した迫害で、いわゆる「(司法制度の)武器化」である、(2)明らかな選挙妨害である、ということだ。

さらに、ハーバード大学ロースクールのダーショウィッツ名誉教授なども、「最悪の検察職権乱用だ。特定の人を定めてから、罪を探す方法は、スターリンと同じだ(本来は罪の発見が先)」と主張し、ワシントン・ポストやCNN、一部の民主党議員なども、「良い例ではない」「危険な前例だ」などと懸念を表明している。

トランプ氏起訴の可能性を6年以上追及してきた民主党員のブラッグ検事と、民主党寄りと言われるニューヨーク州の大陪審による判断は(ニューヨーク市や首都ワシントンD.C.等の大都市圏の住民は、大半が民主党支持者で占められる)、トランプ側に不利に働くことは容易に想像がつく。彼らは「一線を超えてしまった」と言えるだろう。一部の保守系メディアや識者も「民主党政権は(危険な)ルビコン川を渡った」と表現している。

バイデン大統領やハリス副大統領は、トランプ氏起訴については「ノーコメント」を貫き、自分たちの関与を疑われないように気をつけている模様だ。

トランプvs.アンチトランプの熾烈な戦いが起きる

「アンチトランプの勢力は、想像をはるかに絶するほど大きく、真実をねじ曲げるほど強い」というコメントを述べる元米政府幹部もいる。今後、大統領選に向けて、「建国の精神」の復活を願い、外交的には非介入主義で、抑止力による平和主義を掲げる「トランプ」側vs.左翼リベラルと既存勢力(党派を超えたエスタブリッシュメント)の「アンチトランプ」側による、非常に激しい戦いが繰り広げられるのは間違いないだろう。

トランプ氏起訴が大統領選に与える影響については、イーロン・マスク氏のように、「トランプ氏の地滑り的大勝利につながる」と断言する人や、最終的には「トランプに不利になる」と予想する人がいるが、現時点ではおそらく、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(3月31日付日本語版)の記事がある種の客観的な分析と言えるだろう。

同記事の指摘は、共和党内ではトランプ支持者が結束して支持率が上がり、大統領選の共和党候補に選ばれる確率は高まるが、無党派など、共和党支持者ではない有権者からの支持率が下がってしまい、「トランプvs.バイデン(民主党候補者)の戦い」では、トランプ氏が不利になる可能性があるというものだ。

実際、トランプ氏の起訴後、共和党内でのトランプ氏の支持率は急上昇し(3月30~31日実施のYahoo News/YouGov調査)、共和党内で2位につけているロン・デサンティス氏を圧倒的に引き離し、トランプ氏を応援する資金は、起訴後、48時間で6.7億円以上集まった。

トランプ氏起訴による共和党議員やトランプ支持者の怒りは、ますます高まっており、今後、"民主党政権の暗部"が暴露されるような展開になった場合(バイデン・ファミリーの汚職問題など)、民主党自体がメルトダウンして、トランプ氏の大勝利につながる可能性も十分にあるだろう。

(米ワシントン在住 N・S)

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